ホスピスにおける人との関わり方、マインドから企業のリーダーとしての役割を学ぶ:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)
人生の最期だけでなく、さまざまな困難と向き合う場合、マイナスの気持ちをプラスの気持ちにするための関わり方、あるいはそのサービスの内容は、これからの人生に大きなインパクトを与えることになる。
ある大腸がんの女性は、迷惑を掛けたくなかったので、1人で頑張らなければと思い込んでいた。彼女の目に映る景色はモノクロだったが、少しの勇気で一歩を踏み出すことで、暖かな手を差し伸べてくれる人がたくさんいることに気が付く。その瞬間、彼女の見る景色に色がついた。私が、あなたが、生きている世界は、明るく、温かく、無限に優しいので、1人で頑張らなくても大丈夫なのだ。
人は、1人ではちっぽけで、弱くて何もできない存在だが、自分を認めてくれる誰かとのつながり、支えとなる関係があると一転して強くなれる。人は単にいまを見ているだけでなく、過去の出来事から将来の夢に向け、いまを生きようとする。いまが辛くても、苦しくても、頑張れるかは将来の夢があるからだ。
「選ぶことができる自由も重要です。これは広い概念で、選ぶことができないと苦しく、選ぶことができるとうれしい。医療の世界でも、望まない治療を無理にされたり、家にいたいのに入院させられたりすると苦しい。医療だけでなく人生は選択の連続ですが、1人の人間として選ぶことができる自由が基本的人権です。選ぶことができる自由、支えとなる関係、将来の夢の3つの支えがあれば、マイナスの気持ちをプラスにできます」(小澤氏)。
病気から学ぶこと、苦しみから学ぶことはたくさんある
自分ごととして、自分の苦しみに気が付くためには、希望と現実のギャップを知ることである。ポイントは、もやもやするとか、イライラするとか、マイナスの気持ちを頭に浮かべること。それが希望と現実の開きである。苦しみが自分ごとになったとき、解決できる困難は問題ないが、解決が難しいこともある。繰り返しになるが、のヒントは(1)分かってくれる人がいるとうれしいし、(2)解決できる苦しみは解決する、(3)解決できない苦しみの中でも、穏やかになれる理由(支え)を見いだすという3つである。
「明日、お迎えがくると分かっていたとしても、プラスの気持ちを持つことは可能です。皆さんが誰かの力になりたいときにどうするか。基本的には同じ考え方です。相手から見て分かってくれる人になることです。相手の解決できる苦しみは、ぜひ解決しましょう。もし解決できなかったとしても、頑張れる支えに気付くことができれば心は穏やかになります。30年近く看取りの現場にいますが、現場はきれいごとだけではありません。私自身、支えなくして、どうすれば絶望に思える死の現場に、長くとどまることができるのでしょうか」(小澤氏)
あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる。少し矛盾するように思えるが、例えば、患者さんの力になりたいという思いがあればあるほど、力になれない場面がある。「この仕事を30年以上やっているので、ある程度は自分の考えを持っていますが、ホスピスで働き始めて3〜4年はものすごく苦しく、力になれない自分が嫌いでした。苦しくて、苦しくて逃げたくなりました」(小澤氏)。
仕事のこと、家庭のこと、さまざまな苦しみがあるが、一番つらいのは自分が誰にも必要とされていない苦しみである。どうすれば苦しみと向き合えるのか。逃げないこと。苦しむ人の力になりたいと願うとき、力になれないと苦しいが、苦しむ人の力になれなくても、そばにいれば、自分の本当の支えを知り、困難と向き合い続けることができる。
「病気から、苦しみから学ぶことはたくさんあります。何気ない家族の一言がうれしい、何気ない友人の手があったかい。見過ごした花に心を奪われ、何げなく聞いた音楽に涙を流す。それは気が弱くなったのではなく、自分を認めてくれる人の存在に気付いたときです。座右の銘である“誰かの支えになろうとする人こそ、一番支えを必要としています。”は、私の言葉ではなく『いのちの授業』の話を聞いてくれた高校生の感想です」(小澤氏)。
最後に小澤氏は、「エンドオブライフ・ケア協会では、ユニバーサル・ホスピスマインドを広めています。それは死と向き合うホスピスの現場で培われた、死を目の前にしても穏やかにいられる、あらゆる場面で役立つ取り組みです。学校、子育て、介護、人間関係、仕事、答えのない困難も感じ方や受け取り方が変わります。それは大切な人と自分が、限られた時間でも自分らしく過ごすための実践的な方法です。ぜひ半径 5メートル以内、家族でもいい、友人でもいい、職場でもいい、学んだことを実践してみてください。そしてぜひコミュニティーにも参加してください。たった1回の出会いでも人生が変わることを期待して、私の話を終わります」と講演を終えた。
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