企業成長の鍵を握るもう一つの視点――リーダーに必要な「戦略物流思考」:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
スマートフォンの普及、コロナ禍によって消費者行動の変化が加速し、企業戦略における「物流」の重要性が高まっている。これからの時代、どんな仕組みを構築していくべきか。『顧客をつかむ戦略物流 なぜあの企業が選ばれ、利益を上げているのか?』を上梓した株式会社イー・ロジット会長・角井亮一氏が、物流を軸にした戦略づくりのヒントを提示する。
この複数箇所に置かれた同じ商品の在庫を、アマゾンではどういう使い方をしているのか。同社では、消費地に近いところから出荷するのを原則としています。九州と関東に在庫が分かれて置かれていたとして、年会費5900円を支払っているプライム会員向けには送付先に近い物流センターから出荷し、会費無料の一般会員には、送付先が東京であっても、九州の物流センターから出荷するといった使い分けをしています。
実際には、このような単純なものではありませんが、日本全国に散らばっている在庫をシステム上で一元管理し、どういう注文の場合(プライム会員なのか一般会員なのか、当日お急ぎ便などの配送オプションを利用するかしないか、単品なのか複数商品の注文かなど)にどこの物流センターから出荷するのが中長期的に効率的になるか、といったことをシステム全体で判断し、指示が下される仕組みになっています。
一般的にこのようなシステムを「オーケストレイテッドオーダーマネジメントシステム」と呼びます。
自動化が加速する物流現場
人件費や電気代など運用コストが上昇しているなか、物流の現場でも、ロボティクスや自動梱包機など自動化ツールの導入が進んでいます。
ロボティクスひとつをとっても、商品の保管されている棚を作業スタッフのもとに移動させる自律走行型のロボットもあれば、自動倉庫への入出庫を効率的に行なうロボットや、ピッキングそのものを人に代わって行なうロボットも実用化されるなど、新しいものがどんどん開発されています。
そういう状況のなかで、どのような自動化システムを導入するのがよいのか。扱う商品の種類や特性によっても、必要とされるシステムは異なります。何かひとつを導入すれば解決するというものでもありません。
しかし、はっきりしているのは、物流現場に限らず、あらゆる世界で働き方改革が求められているいま、個々のがんばりや工夫で何とかする時代は終わっているということです。
物流を企業戦略としてとらえるには、ほかにも「スピード」や「持続性」などさまざまな視点があげられます。詳しくは拙著をお読みいただくとして、大切なのは「物流は『コスト』であり、最小化(ミニマイズ)することに尽きる」という考えから、「物流は『プロフィット=利益』を生むものだ」という考えにシフトすることです。
そして、物流を「利益」として機能させるには、物流によって「コンビニエンス(利便性)」を作ることが欠かせません。これは、BtoCに限った話ではなく、BtoBも同様です。メーカーは、日々の製品の生産に必要な部材がないと、大変な事態になります。一方で、他社よりも正確に、早く、確実に、納品してくれる会社は、取引相手から信頼されます。
ぜひこの機会に、新しい視点で自社の戦略・戦術を見つめ直してみてください。物流から会社を変えていきましょう。
著者プロフィール:角井亮一(かくい りょういち)
1968年生まれ。上智大学経済学部経済学科を3年で単位取得終了し、渡米。ゴールデンゲート大学MBA取得(マーケティング専攻)。帰国後、船井総合研究所入社。その後、不動産会社を経て、光輝グループ入社。物流コンサルティングおよびアウトソーシングの分野で活動。2000年株式会社イー・ロジット創業。物流全般のコンサルティング・セミナー活動等を行なう。著書に『図解 基本からよくわかる物流のしくみ』(日本実業出版社)、『EC物流の動向と仕組みがよ〜くわかる本』(秀和システム)、『すごい物流戦略』(PHP研究所)など多数。
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