マーケティングファネルの誤解、必要なのはチューニング力:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
多くのマーケターが業務で活用する伝統的な「マーケティングファネル」を用いて、優先的に取り組むべき「効く施策」と、優先順位の低い施策が商品カテゴリーによって異なることを説明する。
ファネルにもチューニングが必要
当然ながら、マーケティングファネルにもチューニングが必要だ。商品が持つカテゴリー特性によって消費者の買い物の仕方は大きく異なる。ある程度対象物に対する基礎知識があり、購入頻度が高く、価格が安く、購入による失敗リスクが低い食品・飲料・日用雑貨などの最寄り品(一般消費財)と、その逆で、基礎知識があまりなく、購入頻度が低く、価格が高く、購入による失敗リスクが高い家電・自動車・住宅などの買い回り品や専門品では、消費者の関与度も、購買プロセスもまったく違うのだ。最寄り品のマーケティングファネル(購買プロセス)を、一般消費者になったつもりで考えてみよう。
まず、最寄り品に「そのうち客」は存在しない。買い回り品・専門品のように、ニーズがまだ顕在化していない潜在顧客を中長期にわたって育成するプロセスはさほど考えなくていい。次に理解促進・比較検討だが、最寄り品はヒューリスティック処理で購入される。
商品の特徴や競合商品との違いについて最低限の理解はしてもらう必要があるが、関与度が低いため、深い商品理解をしてもらうことは困難である。システマティック処理で購入される買い回り品や専門品と違い、ほとんど比較検討はせず、習慣や直感、店頭価格で購入が決定される。最後に、買ってもらってからのマーケティング(ポストマーケティング)だ。
買い回り品や専門品は、総じて関与度が高いため、ファンマーケティングとの相性がいい。また、購入頻度は低いものの、商品単価が高いため、LTV(顧客生涯価値)のマネジメントが重要になる。それゆえCRM(顧客関係管理)としての会員管理やポイントシステムなどが有効となる。
一方の最寄り品は、関与度が低いため、相対的にファンマーケティングとの相性は悪い。最寄り品は、購入頻度は高いものの、顧客の数が多く、購入単価が低く、1人当たりのLTVは限定的だ。特定少数のファンとの関係を深めても、売上全体へのインパクトは小さい。
顧客は生活の中で数百を超える最寄り品を習慣的に購入・使用しているため、個別商品に対する関与度は低い。いちいち会員登録をしたり、ポイントシステムを利用したりするなどのモチベーションは低いといえる。
最寄り品では「ポストマーケティングは不要だ」といっているのではない。最寄り品においても、リピート購入を最大にするために、顧客との関係を維持・向上させる取り組みや、再想起性を高めるLINE施策やSNS公式アカウントによるエンゲージメント獲得などは有効である。最寄り品におけるポストマーケティングは、買い回り品・専門品のそれとは目指す思想やゴールが根本から違うことを忘れてはならない。
売上の地図のチューニング
ここで、2022年6月売の拙著『売上の地図』(日経BP)で示した売上をつくる要素の構造図を見てもらいたい。
この地図はあくまで最大公約数的なものであり、実践で使用する際には商品特性に合わせたチューニングが必須である。
マーケティングは、お客さまに買っていただくための作戦を練り、実行し、成果を上げて初めて価値がある。そしてその成果は、どれだけ多くのフレームを知っているかではなく、それらをいかに使いこなせるか。商品カテゴリー別の戦略チューニング力にかかっているのである。『業界別マーケティングの地図』では、14の具体的な商品カテゴリー別に、重視して取り組みたいマーケティング戦略を解説している。
著者プロフィール:株式会社トライバルメディアハウス 代表取締役社長 池田紀行
1973年横浜生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手企業300社以上の広告宣伝・広報・販売促進を支援。JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。年間講演回数は50回以上、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『業界別マーケティングの地図』(日経BP)、『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)、『売上の地図』(日経BP)、『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)など著書・共著書多数。IT mediaビジネスオンライン「トライバルメディアハウスのマーケティングの学び方を学ぶ塾」連載中。
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