「わが社はシステム導入に成功した」――建前だけでマスコミを釣るシステム担当者たち間違いだらけのIT経営(1/2 ページ)

新しい情報システムを採用するときに、多くの企業は他社の導入成功事例を気にする。担当者同士の情報交換も有効だが、ほとんどの場合、マスコミ報道が情報源になる。影響力が強い一方で、危険な面も含んでいる。

» 2008年09月19日 08時45分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]

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 IT導入にいかにかかわるべきかを、長い間さまざまな角度から検討してきた。トップに始まり、CIO(最高情報責任者)、経営陣、情報システム部門、ユーザーである業務部門、直接のユーザーを取り巻く関連部門、ベンダー、コンサルタント、そしてSEと多岐にわたった。

 しかしよくよく考えてみると、IT導入にかかわっているのはそういう直接的な関係者だけではない。IT導入にかかわるのは、トップが出会って影響を受ける他社の経営者もいれば、役員や情報システム部門長が仕事の関係で影響を受ける同業他社の仲間もいる。研修会やセミナー、その筋の専門書や解説書である場合もある。外部情報はかなりの影響を与えるという意味から、IT導入へのかかわり方は大きい。

 今回は、テレビ、新聞、雑誌など「マスコミ」が持つ影響力について検討する。企業がIT導入する際にマスコミが与える影響は小さいものではない。マスコミの報道で企業のトップをはじめ関係者が、開眼したり、洗脳されたり、影響を受けたり、教育されたりするという可能性は少なくない。それだけに、マスコミのIT導入に対するかかわり方は重要である。マスコミは、IT導入にどうかかわるべきか。

 ことIT導入については、マスコミは「建前」を捨ててもらわないと困る。一見、建前と分からない建前が、横行しているのではないか。その一例を示したい。

新システムが効果が出ないわけ

 以前、某中堅企業のトップから相談がもちかけられたことがある。2年ほど前に導入したグループウェアがさっぱり効果をもたらさないので、チェックしてほしいというものだ。

 その某社が先般「グループウェア導入成功事例」として雑誌の取材を受けた。トップは情報システム部長から取材を受けていいかという伺いがあったとき、会社の宣伝にもなるので許可した。雑誌には成功事例として華々しく掲載されたが、記事を読んだトップは日ごろの業務とかけ離れていて、どこか他社の紹介記事を読んでいるような気分になったという。そこで、情報システム部門長を問い詰めたら、頭をかきながら「当初の計画通り稼働して効果が出ている」とついうそぶいてしまったという。

 そのグループウェアの稼働状況をチェックすると、なるほど体裁は整えられていた。例えば、連絡のメールが社内を駆け巡っていたり、庶務通達がオンラインで流されたり、営業や顧客からのクレームや要望がデータとして蓄積されていたりなど形はできていた。しかし一方で、会議は少しも減っていないし、伺い書のパソコン処理は見せ掛けで、実際はアウトプットされて従来通り持ち回りで処理されていた。顧客クレームや要望はただデータとして保管されているだけで、整理もされていなければ使われてもいなかった。要するに、社内にメールが飛び交っている様子を見て、トップをはじめ従業員たちはいかにも先進企業になったと自己満足していただけだった。業務改革を省略して、ただシステムを導入しただけで、効果が出ないのは当然の結果だった。

 この場合、たまたまトップが気付いたが、そのまま気付くことなく「成功した」「所期の効果が出ている」と誤解してしまう企業は少なくないはずだ。

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