イノベーションコンセプト入門
【最終回】イノベーションコンセプトの実践
これまでイノベーションコンセプトの要素として、「誰に」「何を」「どのように提供するか」を見てきました。各要素では、四則演算(+/-/×/÷)を行い、自社以外のリソースや他社との協業により、固有の価値を提供する事例を見てきました。
優れたイノベーションコンセプトとは、必ずしも各要素に奇抜なアイデアがあるのではありません。むしろQBハウスやアスクルのように、既存の製品サービスや対象顧客、および新しいベネフィットを定め、各要素を足したり引いたりする方が優れたイノベーションコンセプトへの近道でしょう。
四則演算の前に、是非参考にしたいのは異なる業界や製品、環境を通した類推による発想です。これは他業界や他社の事例や訴求の仕方を見て、自社との違いや共通点を見つけ出し、ヒントを得る方法です。特に自社と全く異なる事業を、自社の価値基準に例えることは、大きな発想を引き出します。
米国サウスウエスト航空のイノベーションコンセプト
例えば近距離フライトに特化した米国サウスウエスト航空は、「ビジネスマン向け」に「格安な空飛ぶシャトルバス」を「人材重視の低コスト運営」により提供するのがイノベーションコンセプトです。乗客が集中する時間帯に合わせたスケジュール、よく利用される目的地に絞り込んだルート設定、機内サービスをソフトドリンク以外全て廃止、ボーイングだけ利用することで航空機のメンテナンス費用を低くし、低コスト運営を行っています。
これは従来存在したサービス過剰気味の優雅な空の旅ではなく、地上にあるシャトルバスのように、手軽に格安に利用できる日常の移動手段としての航空サービスです。また低コストではありますが、自社従業員満足を顧客満足よりも重視するスタンスを保つことで、高い人材維持率を誇ります。人件費も他社航空会社と比較すると、必ずしも安くはありません。サウスウエスト航空は米国航空業界の中で、好業績を誇っています。
「どのように提供するか」を緻密に計画し実践することで、実行性を担保します。ただし安易な選択肢を選んでしまうと、そもそもイノベーションコンセプトが崩れてしまう場合もありえます。いわゆるトレードオフ(どちらか一方を選べば、他方が犠牲となる関係)ですが、選択を誤ると競合とあまり代わり映えしない凡庸なイノベーションコンセプトになる可能性もあります。
Thinkpadのイノベーションコンセプト
かつてのIBMで、ノートPCのThinkpadにかかわる逸脱のイノベーションコンセプトを聞いたことがあります。2000年当時、PC事業が暗礁に乗り上げたとき、事業担当者はIBM Thinkpadのイノベーションコンセプトを再度位置づけ、関係者を力づけました。
担当者いわく「産業の米といわれた半導体にかわり、PCはビジネスマン必須のオフィス機器である。激しい価格競争が続く中、IBM Thinkpadとは、いわばPC業界のメルセデスベンツである。それは高機能であり、高付加価値であり、高価格である」。
このイノベーションコンセプトを聞いた多くの社員は、強く動機付けられました。それは、われわれは安物のPCではなく、高級品であるベンツを製造販売していのだと。
上記は自動車業界に例えて、自社製品を述べることで(類推:Analogy)目指すべき位置づけを表現しています。流行の格安PCではなく「違いが分かるプロフェッショナル向け」に「高品質高機能のビジネスマシン」を提供することです。このように良いイノベーションコンセプトとは要点を端的に伝えるのみならず、新しい価値観を吹き込み、受け手を動機付け、動かす力を持つものです。
お勧めする切り口は、既存の事業やプレイヤーの状況を把握し、関係者で共有しながら、次なるイノベーションコンセプトを発想していくことです。年毎、またはIT業界などでは半年ごとでもいいのかもしれません。実際には、ブレインストーム形式や討議形式をとりながら、各要素を洗い出し、他業界から類推し、演算し、次なるイノベーションコンセプトを模索していくことです。
以上、全7回にてイノベーションコンセプトについて述べました。取り上げた事例を詳細に見れば分かるように、実際のコンセプトは意外に単純であり分かりやすいものです。この明快で斬新なコンセプトを、一貫性ある全体像として組み立て、運営し、見直していくことが鍵となります。
この連載が読者の参考になれば幸いです。
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