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ピンチに強くなる(2/4 ページ)

招かれる人は多いが、選ばれる人はわずか

 「クラッチ(clutch)」という言葉は一般的に、自動車の変速機でギアチェンジする時に使う装置のことを指します。しかし、アメリカ英語では全く別の意味も持っています。「to be clutch(クラッチになる)」や「perform well in the clutch(クラッチの中で活躍する)」という表現がありますが、両方とも「重大な影響を及ぼす決断を下す時間がほとんど与えられない、ストレスやプレッシャーが最も大きい状況の中でベストを尽くす」という意味です。

 つまり、「ピンチに強い人」あるいは「ピンチの中で活躍する」という意味です。ピンチの中でも活躍できる人はほんのわずかしかいません。ほとんどの人が行き詰まったり、力を発揮して乗り越えることができなかったりします。リラックスしている時にできることを緊迫した状況でやることは、簡単な事ではありません。もし簡単であれば、誰もがピンチに強くなれるはずです。また、ピンチの中でも活躍できる人はわずかですが、その中の人でもほとんどがある特定の状況下でしか活躍できません。

 タイガー・ウッズは史上最もピンチに強いプロゴルファーだといえるでしょう。彼は、一流トーナメントの最も重要な場面で、信じられない程難しいショットを練習で見せる時と同じように簡単に決めることができます。しかし、大々的に報道されたウッズのスキャンダルまみれの私生活やそこでの決断を見ると、ゴルフで見せる鋭く慎重な決断を下す能力は、ゴルフ以外では発揮されていないことが分かります。

 ピンチの時は、スポーツ以外の分野でも見ることができます。近年の経済破綻の中、多大な時間的制約の中で重要な決断を迫られた大手金融機関のリーダーの中には、妥当で機能的な決定をしましたが、道徳的判断を大きく欠いた人がいました。

 また、政治家は選挙に出馬する厳しさに耐えることはできますが、ピンチの時の強さがもたらす「戦略的優秀さ」を生かせる人はほとんどいません。何が人をピンチに強くするのか理解するには、次の要素を考慮して下さい。

 逆境の中で最大の力を発揮するノウハウが書かれている本がなぜ、 clutch というタイトルなのかがここでよく分かりました。きっと clutch は重要な働きを担っているにもかかわらず、どんな時にも必ずその役割を果たすからこそ、それが転じて「ピンチに強い人」という意味になり得たのでしょう。タイガー・ウッズのようなアスリートに関わらず、それはどんな業界においても必要とされる能力であることが分かります。

「集中」と「専念」は違う

 多くの人が「集中する」ことと「専念する」ことを混同してしまいます。ほとんどの人が、その瞬間、その瞬間で目の前にある問題に専念することはできますが、全ての行動、言葉、戦略がもたらす影響力や、その1つ1つが全体図にどのように貢献するのか考慮するために必要な、完全な集中力を維持することができる人はほとんどいません。

 例えば、法廷弁護士は、抱えている裁判のあらゆる側面にわき目も振らずに集中し続けなければなりません。また、アスリートはいつでも自分のフォームに注意を向けることができます。しかし、試合が終わるまでずっと自分の動きすべてに一心に集中することができるでしょうか? 集中することで問題の全体図が見えてきますし、問題の要素1つ1つを理解できるようになります。ピンチの中の活躍の根底にはぶれない集中力があるのです。

 今、そこにあるピンチ、それを乗り越えるためにはそれをチャンスに変えろ! というのはよく言われる言葉です。しかし、そうではありません。それ以前に、全体を把握し状況をつかむことに集中することが必要といえるでしょう。

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