ビジネスとITを“動かす”仕組み──BizOpsという選択肢
摩擦を解像度でほどく―jinjerに学ぶBizOpsの現場知(2/2 ページ)
第4章:データと感情の補完関係
BizOpsの役割は、データを整備し、仕組みを設計することにとどまりません。jinjerの実践が示すのは、人はデータだけでは動かないという現実です。
合理的に見える数字や指標も、それだけでは組織を前に進める力になりません。営業現場で「質が低い」と感じられるアポイントを、いくら定量的に価値づけても、担当者が納得していなければ実際の活動には結びつかないのです。人が「違和感なく手を動かせる」状態に至るには、感情面での納得感が欠かせません。
jinjerのBizOpsは、この点を見落としませんでした。データはあくまで対話を支える補助線であり、最終的には現場の心理に寄り添いながら議論を進めていきました。ときには摩擦を無理に収束させるのではなく、議論を「寝かせる」判断も行いました。あえて時間を置くことで、関係者の心の準備が整い、改めて前向きに合意形成できるタイミングが訪れる。そうした「間合いの調整」こそが、摩擦を建設的に扱ううえで不可欠だったのです。
また現場とのコミュニケーションにおいては、「まず相手に与える」という順序を意識。要求を一方的に突きつけるのではなく、まず相手の立場や責任に寄り添い、相手が動きやすい状況をつくる。そのうえで、自分たちの要望を置いていく。こうした努力が信頼を生み、最終的にデータや仕組みを活かした変革を支えていきました。
摩擦をデータで説明しきることはできません。人間の納得感を尊重しながら、議論の補助線としてデータを活用する。数値と感情を両輪で扱えるかどうかが、組織を動かす分水嶺になるのです。
第5章:摩擦を恐れず経営の武器にする
jinjerの取り組みから見えてくるのは、摩擦を恐れるのではなく、それを「解像度」でほどき、成長の推進力へと変える姿勢です。営業組織の分業制に伴う衝突は、どの成長企業でも避けられない現象です。しかし、それを単なる不満や非効率として扱えば、組織は学習の機会を失います。
BizOpsの実践は、摩擦を「見える化」し、意味づけ、共通言語に変える営みでした。アポイントの定義を細分化し、指標を整理し、リソース配分を仕組みとして設計する。データを補助線にしながら感情の納得感を尊重し、属人性を超えた再現可能な仕組みに変える。この両面を支えることで、組織は摩擦を越えて前進できるのです。
重要なのは、摩擦の存在を否定しないことです。むしろ、摩擦は組織が成長のフェーズに入った証拠と捉えるべきでしょう。そこにBizOpsを戦略的に位置づけることで、経営と現場をつなぐ新たな仕組みを獲得できます。
「摩擦を解像度でほどく」という言葉は、jinjerの現場を超えて、あらゆる成長企業に共通する示唆を与えてくれます。データと感情を両輪で扱うこと、仕組みで属人性を乗り越えること。これらは、短期的な成果を超えて、長期的に企業を支える実行力となるはずです。
BizOpsは、単なる「調整役」ではありません。摩擦を恐れず、むしろそれを成長の燃料に変えるための、経営に不可欠な機能なのです。
次回予告:「IPO前夜に効く『CorpOps』――“泥を啜る”現場の実装論」
次回は、内部統制やIPO準備など、企業の“成長の踊り場”に立ちはだかる壁に挑む「CorpOps(コープオプス)」の実践に迫ります。
販売管理やワークフロー再設計といった地味で厄介な領域に、どのように経営の意思をつなぎ、現場の痛みに向き合い、仕組みとして“回る”まで落とし込むのか。ビズオプス協会理事・村本氏の経験をもとに、BPRでもDXでも終わらせない、泥臭くも本質的な“仕組み化”のプロセスを紐解きます。
著者プロフィール:望月 茉梨藻(もちづき まりも)
1990年生まれ。神奈川県在住。マニュアル制作会社での制作ディレクションを経て、2017年に株式会社ビズリーチ入社。営業基盤の再構築やSalesforce運用を担当した後、株式会社スマートドライブにて、上場前後の成長フェーズにおける事業部横断の業務設計やSaaS導入・定着支援を推進。2022年よりフリーランスとして独立し、現在は一般社団法人BizOps協会の理事を務める。BizOpsの専門性確立と普及に取り組むとともに、実務者として複数企業の業務構築・運用改善に従事。ライターとしても活動しており、ビジネス、組織論、ジェンダーといったテーマを中心に、構造的な課題への眼差しと現場感を交えた視点で発信している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
ビジネスとITを“動かす”仕組み──BizOpsという選択肢
この記事の著者
関連記事
ITmedia エグゼクティブのご案内
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。 勉強会のスケジュールはこちら
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入して申請ください。審査のうえ登録させていただきます。
- 入会条件:
- 上場企業および上場相当企業の課長職以上
※入会は無料です
エグゼクティブコンテンツ
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
第50回:なぜ「優秀なマネジャー」ほど経営に嫌われるのか
-
2
ITmedia エグゼクティブ勉強会スケジュール
-
3
「CISOは1人の経営者たれ」――ログの先の人を思う、LayerX CISO 星氏
-
4
「セキュリティは事業を活かす出汁、責任者はCIMOで目指せ」 - JTB 椎野氏
-
5
味の素社が挑む“dX”とAI駆動開発――“企画・開発・営業ができる人財”が新規事業を加速する
-
6
「人間洗濯機」が高齢者施設に 福祉の現場に万博技術導入 人手不足解消や産業成長に期待
-
7
スキルの向上だけでは成長は望めない――より重要になる「成長マインドセット」とは
-
8
重要文化財の弁財天像 3Dデータ化で確実に継承へ 「将来に残したい」神奈川・江島神社
-
9
「レッドガス」時代の羅針盤【第三章】従来型グローバルサプライチェーン設計思想からの脱却
-
10
「その100時間は、何も生み出していない」――認知科学者・堀田創氏が斬るリーダーの"見えない疲れ"
ITmedia エグゼクティブ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaエグゼクティブをフォロー