奇々怪々の戦略/政策決定プロセスが少なくない。どんなプロセスで経営戦略や経営政策が決定されていたのだろうかと訝らざるを得ない現象が幾つか起きている。
増岡直二郎氏による辛口連載「生き残れない経営」のバックナンバーはこちら。
「専門家の知を活用せよ」(2010.2.25.日本経済新聞「経済教室」石井 弘光)を、政治家ばかりではない、世の経営者にも読んでもらいたい……とつくづく思う。経営の世界においても、理解し難い戦略/政策決定プロセスが頻発し、経営を誤っているからだ。
周囲には、奇々怪々の戦略/政策決定プロセスが少なくない。経営の内部に立ち入ったわけではないので詳細は計り知れず、結果論のような議論になるが、少なくとも外部から垣間見たとき、どんなプロセスで経営戦略や経営政策が決定されていたのだろうかと訝らざるを得ない現象が幾つか起きている。
公表してマスコミにも大きく取り上げられながら、某有名大企業同士の経営統合が決裂した。業界一位の企業と創業家の思惑が統合比率という最も基本的なところで合意に到らなかったことについて、当初どんなプロセスで統合戦略が決定されていたのだろうか。
「(事業の)成長スピードが速すぎて、人材育成が追い着かなかった。(品質管理への)コストの配分がうまくいかなかった部分があるかもしれない」(2010.2.25.読売新聞夕刊)米議会下院公聴会での社長発言である。事業拡大スピードに、自動車メーカーとして最重要テーマの安全に関する人材育成や品質管理がおろそかになっていたことを、企業のトップが世界に向かって認めた瞬間だ。企業業績の拡大はもちろん、それと併せて新製品開発や安全、品質、販売などに関する経営戦略を策定するのがトップ、経営陣の仕事である。その策定プロセスに、大きな欠陥があったのである。
某企業グループの3社が、ある日合併された。その中の1社であるA社は合併に疑問を持ったが、企業グループの方針に逆らえなかった。素人目には一見3社の技術に共通点があるように見えたが、基本的に違いがあり、市場も、販売方法も異なっていた。合併3年後に、そのA社は再分離された。
再分離の理由となる市場状況などの背景分析は、3年前の合併反対時にA社が独自に分析していた内容と全く変わらない。合併によって失ったA社の営業ルート、人材などは余りにも大きかった。A社は、企業グループ合理化の人身御供になったのだろう。まず合併ありきで、戦略や政策の決定プロセスがいい加減だったのだ。合併に至る戦略決定の深刻な反省もなければ、決定者や執行者の処罰もない。
これもまた不可思議な世界で、奇怪な戦略決定プロセスではある。さらに次に示す事業戦略や政策を決定するプロセスの実態を見たとき、実に情けなくなる。
某大企業の場合、事業計画・予算など、経営を左右するような重要な戦略や政策の作成プロセスは、まず作成事務局となる総務部門が、事業部門長にそれぞれの自部門の計画を提出させる。すると、計画提出を求められた部門長は、さらに自部門配下のグループ長に同じように計画を出させてまとめる。総務部門が集まった部門計画をつなぎ合わせて、完成。
事務局案が会議の俎上に上がる場合は、トップの気まぐれな質問に当事者が答える。当事者は、無難に終わることを祈り、波乱がなかった結果を祝福する。いずこにも、「戦略」の議論など見当たらないし、トップの方針が積極的に入る場面もプロセスの中に見出せない。
某中堅企業の新製品開発計画や品質計画という最も重要な経営戦略の一つが、やはりいい加減な決定プロセスを辿っている。6カ月に1回開催される全社レベルの新製品開発会議、あるいは品質確保会議で、設計や品質管理部隊から出される新製品開発計画、品質確保計画を、関係者列席のもとで議論する。議論とは名ばかりで、やはりほとんどがトップの限定された関心の質問に答えることに終始する。ここでもやはり、新製品開発や品質管理の基本的な考え方に関して、トップの意思が積極的に入る場面は、まずないと言い切ってもよい。
ただ、新製品の品質に関するチェック機能は優れている。レビュー会議と銘打って、新製品の試作段階で品質保証部門(品保)が主催をして開催するが、品保の最終認可が出ないと量産に入ることが絶対できない。品保は厳格なチェックをする。トップ以外、いかなる地位の人間も品保の権限を侵せない。それが伝統であるが、その権限を品保に与えているのがトップの方針による。この点だけは、素晴らしい。
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明治学院大学 経済学部准教授