事業の方向性の相違によりITガバナンスがどのように変化するのかについて、3回に分けてご説明します。
前回は、ITガバナンスの定義についてお話をしました。今回は、前回の続きで事業の方向性の相違によりITガバナンスがどのように変化するのかについて、ご説明したいと思います。
その前に、前回のコラムについて、次のようなご質問をいただきました。「当社は、いまだに今回の不景気の影響を強く受けていて、IT部門には、ITコスト削減が経営トップから強く求められています。このようなIT組織の場合は、ITプリンシプルには、“ITコスト削減”だけが記載されるのでしょうか」というものでした。
まず、ITプリンシプルは、ITが自社の何に貢献するのか。どのような貢献を期待されているのかを記述するものです(具体的な例を後述していますので、ご参照ください)。従って、コスト削減だけを期待されているとするならば、ITは全面的になくなってしまえばいいという話になります。コストを削減し、効率的に業務を遂行しなければならないことは言うまでもありません。
しかし、ITコスト削減だけをIT部門の基本原則(≒存在意義)にしてしまうのは、おかしいことです。コストを極小化することは、間違いではありませんが、究極の極小化はITコストをゼロにすることになります。これ以上はありません。しかし、ITは、ビジネスや企業運営に何も貢献していないのでしょうか。また、本当になくしていいのでしょうか。
このような質問が出てくる背景には、1. 経営トップがITの価値を理解していない、2.ITの責任者が経営トップにITの価値を説明しきれていない、3.ITとビジネス、企業運営との融合ができていないことに起因しています。1から3の根源的な原因は、ビジネス側(および経営側)とIT側との意思疎通がうまくないことが原因です。そして、この意思疎通を円滑かつ十分に実施する方法がITガバナンスそのものだということを理解していただきたいのです。
ビジネス・ガバナンスの体制は企業によってさまざまです。従って、当然ながら、ITガバナンスについてもすべてに対応可能なオールマイティな形態があるわけではありません。しかも、ITガバナンスをビジネス・ガバナンスとかみ合うように調整しようとすると、意思決定のための適切な体制を設計することはますます困難になります。しかし、ITの意思決定領域と企業のビジネスの方向性に最も適したスタイルとメカニズムを持つこのような体制を確立することで、より効果的なビジネス・ガバナンスを支援できるようになります。
ITガバナンスとビジネス・ガバナンスを設計する上での最大の課題は、企業とその各事業部の間の境界とそれぞれの責任範囲を明確にすることです。企業には大きく3つの方向性があります。それらは「シナジー(部門ごとの相乗効果)志向」「アジリティ(俊敏性)志向」「自立性志向」です(図1)。
ビジネスの方向性が2つあるいは3つすべてと思われる企業においても、本流となっている1つの方向性があるはずです。図2に、自社がどの志向なのかを見極めるための簡単な自己評価シートがありますので、これを活用してください。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授