創業から12年。現在、100万人以上の顧客を持つオンライン証券会社は世界で8社あり、マネックス証券はその1つに数えられるまでに成長した。創業来、日本に事業基盤を置き、日本の個人投資家にオンラインの総合金融サービスを提供してきたマネックス証券が次に目指すのは、世界の個人投資家にサービスを提供し、そして多国籍の社員が働くグローバルな企業だ。そのために、新しいことに挑戦し続けるアバンギャルドな存在でありたいという。
松本さんとは、ネットイヤーグループが米国から日本に本社を移した直後にお会いして以来のお付き合いです。共に創業が1999年なのですが、当時は、いわゆるネット系ベンチャーが有象無象に設立されていた頃で、若い経営者も多かった。その中で、ピカピカの経歴を引き下げて、果敢にベンチャーに挑戦する大人の松本大という個人に興味を持ち、面談を申し込んだのです。松本さんは、開成高校、東大法学部、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券という世界で名だたる証券会社で最年少パートナーになった人です。こうした経歴や実績を見るだけでも、世界に通用する数少ない日本人の1人といえると思います。
松本さんは、ゴールドマン・サックスが上場する直前に退職し、マネックス証券を立ち上げています。上場する直前の退職がどういう意味かお分かりでしょうか? パートナーとして所有していたストックオプションを上場後に行使して売却すれば、億単位のキャッシュが手に入ったということです。しかし、松本さんは、それを捨てても起業のタイミングを逃さないことに意味があると言っていました。ネットビジネスが晒される事業環境の変化のスピードは他の比ではありません。半年遅れたら、マネックス証券の今はなかったと言います。
公私共に信頼できる友人としてお付き合いをして、10年になります。今日は、インターネットという存在が自身のキャリアを大きく変えた者同士、まじめに膝を突き合わせて(笑)、これからのマネックス証券について聞いてみました。
3月に起きた東日本大震災により、多くの人がインターネットの威力を目の当たりにすることになりました。Webやクラウドのネットワークが災害時にどのように機能するのか、ネットの強みを改めて認識させられる出来事になりました。
松本さんは、この震災で、世界のフラット化が進んでいることを改めて実感したと言います。震災直後に、世界中からTwitter、Facebook、Skypeでメッセージが届いたそうです。このようなことは一昔前には考えられませんでした。日本で起きたことが世界にリアルタイムで伝わっていく。国などによるイデオロギーの伝達ではなく、個人が発信する情報や気持ちまでも伝えることができるというのは、Webがもたらした大きな変化です。「マスメディアから個人へ」「日本から海外へ」情報が流れていくのではなく、個人を起点に縦横無尽に情報が拡散する。そのことにより、世界が日本を知り、また日本にいるわたしたちも世界が何を見ているかを克明に知ることができました。
株式市場は、震災が起きたことで、「東京で震災が起きたらどうなるのか」「東京の資本市場の機能がストップしたらどうなるのか」を、より真剣に考えるようになったと思います。東証は今回の震災でも、取引所を閉鎖しませんでした。サーバーやデータセンターなどには影響はなく、投資家に取引の場を提供し続けたのです。資本市場は、資本市場としてのそのプラットフォームの機能を提供し続ける使命があります。
実は、震災の約10日前、米国時間の3月1日に、東京証券取引所が運営する「arrownet(アローネット)」とNYSEユ―ロネクストの「SFTI」の相互接続を通じてそれぞれの顧客がお互いの市場へ容易にアクセスできる方法を検討することが発表されています。世界の金融・資本市場が繋がっていくこと。このことにより、市場は相互に補完され、投資家が常に取引が可能な状態、24時間化が進んでいく。5年後10年後に世界中の資本市場は、この流れがもっと進んでいると考えています。マネックスはその状態を見据えて、グローバル化を進めようとしているのです。
松本さんにとってのグローバル化のスペクトルの第1は、世界中の金融商品を扱うこと。第2は、マーケットを世界に移す、つまり、世界の人をお客様にしていくこと。第3は、マネックスでさまざまな国籍の人が働き、サービスを創り出していること。どこの国の会社かが分からないような、無国籍な企業およびサービスのブランドを構築してゆくことを目指しています。
最近、内外で証券取引所の再編が相次いでいます。取引所の統合が証券会社や投資銀行、そして、わたしたち個人投資家にどのような影響を及ぼすのでしょうか。素人目には、「日本市場だけ取り残されるのでは」「ニューヨーク証券取引所とナスダックが統合されると、ベンチャー企業が上場できる新興市場がなくなってしまうのでは」といった不安を覚えます。
株式など金融商品の取引は、主に証券取引所を通じて行われていますが、実は、年々、取引所"外"の取引が増えています。取引所外の取引というとピンと来ないのですが、機関投資家や事業会社など法人向けの「ダークプール(Dark Pool)」と、個人・法人向けの「私設取引システム(PTS)」があり、日本においてもこれらを使った売買は増加しています。
例えば、NYSEユーロネクストとドイツ証券取引所の経営統合は、取引ボリュームが減少し取引所ビジネスにとって収益性が低い現物取引のビジネスを補完するため、収益性の高いデリバティブ取引が強みの取引所を統合し、取引所ビジネスを強化する意味を持っているのです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授