早稲田大学電子政府・自治体研究所が開催したフォーラム、「超高齢社会と情報社会の融合」で、資生堂の檜山氏が講演を行った。テーマは「シニアの健康、いきがいと化粧」。同社の地道な取組みと独自のIT活用を紹介する。
日本は65歳以上の高齢者人口が3000万人を超え、超高齢社会となった。そして高齢者人口の中で、約500万の人たちが要介護認定を受けている。資生堂はこうした人たちを中心に、各老人養護施設や医療施設などに出向き「お化粧教室」の活動を行っている。
お化粧教室は、文字通り女性にお化粧やマッサージを施し、認知症などの症状改善を目指す活動である。資生堂は、さかのぼること戦後間もない1949年から、高校卒業予定者を対象に、社会人の「身だしなみ」としての化粧法を教える「特別美容講座」活動を始めており、高齢者向けには1975年から徳島県の医療施設を皮切りに全国でボランティアで開催、現在に至っている。
高齢者向けのお化粧教室は医学的にもその効果が認められている。資生堂では認知症のリハビリテーション原則に基づいた化粧療法プログラムを開発し有償サービスとしても提供している。ボランティア活動は年間約3000施設で実施、資生堂の全社員がトップも含め参加している。専用のポータルでいつどこで開催されるかという情報が共有されており、参加実績も記録されているという。
「これまで、のべ5万人以上の高齢者の方々がお化粧教室に参加した。当社は“美しい生活文化を創造していく”ことを社会に向けてのミッションとして掲げている。地道に活動を続け、各方面から表彰されたりしているが、要介護認定を受けている人が国内で500万人という現状を考えれば、現状に満足せずさらに活動を広げていかなくてはと考えている」と語るのは、資生堂 事業企画部長、資生堂インターナショナル取締役社長の檜山敦氏だ。
資生堂は、東日本大震災においても被災地で手のマッサージサービスをボランティアで実施した。手を丹念にマッサージすることで体温が上昇し、暖をとることもままならない環境にいた被災者から大変好評を得たという。美容の知識やノウハウは、さまざまな人、状況に役立てることができるということを、資生堂は実践によって示している。
高齢者、特に介護を必要とする認知症患者に対するお化粧教室の効果は、資生堂と医療機関などとの連携によって調査が続けられている。徳島県の鳴門山上病院で実施した調査では、90%の人が表情が明るくなり、35%の人がみだしなみに気を遣うようになり、リハビリや洗面、トイレなどを自分から積極的に行うようになった人が35%、おむつが取れた人が28%、あきらかに気持ちが安定してきた人が25%となった(被験者:66歳から93歳までの女性40名)。
「認知症の方は、まず表情が乏しい。それがお化粧をすることによってがらりと変わってくる。リハビリは本人が積極的に取り組まないと効果が出てこない。洗面やトイレなどを自分でできるようになると、積極性が高まる。もう一度お嫁にいかなきゃ、と笑顔を見せる人だっている。美容が高齢者の方のQOL(Quality of Life)の向上につながっている」(檜山氏)
通常、医療施設では顔色が分からないので化粧は禁止されている。しかし、効果が大きいことから、化粧の時間を設けるケースも増えてきているという。また、女性が生き生きと活動しだすと、男性にも明るい変化が生まれ、高齢者同士の会話が格段と活発化したという報告も出てきている。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授