変わり続けるカヤックでは、フリーランス感覚での働き方が求められる。生き残るために自分の強みを生かす、求められるものに合わせて自分を変える。強く柔軟な組織は、自己責任で形成される。
面白法人カヤックは、鎌倉に本社を構える会社だ。2012年にできた横浜展望台オフィスには開放感が漂い、社員の雰囲気や個人の持っている名刺からは「面白いこと」を重要視した、自由な社風がうかがえる。
「サイコロ給」――給料日前にサイコロを振って、出目で給料を決める制度は、知っている人も多いのではないだろうか。一風変わった社内制度が着目されることの多いカヤック。しかし、ユニークな社内制度が次々と生まれる仕組みや、同社のマネジメント手法については、いまだ多くは語られていない。
代表取締役が3人、200人前後いる社員のうち8割がWebクリエーターという一風変わった組織構成で、どのように組織の成長性を維持しているのだろうか。その秘密を、柳澤大輔代表と執行役員で組織マネジメント業務を担当している(当時)佐藤純一氏に聞いた。
中土井:前回はカヤックが社内で共有している価値観である「クリエーター生態系」について聞きしました。単純に役割を細かく分けるのではなく、より生物的に成り立たせていくための仕組みについても具体的に聞きました。
クリエーター生態系のベースにあるのが、自由と混沌という環境でした。その中で、社員は常に変わり続けなければなりませんから、ある意味では、ものすごいフラストレーションがあると思います。社員からの相談はどのようなものがありますか?
柳澤:自分の上司が誰だかはっきりしてない会社だから、誰のいうことを聞けばいいのかが分からないという相談はあります。でも、自分で生き残っていくしかありません。
中土井:誰かの下に付いて仕事をするのではなくて、そのときそのときで、求められるものに合わせて自分を変えて、応えられる人が生き残っていけるんでしょう。
もうひとつの生き残っていけるタイプとしては、自分経営ができる人じゃないかと思います。視座を高めて、目的とゴールを見極め、アウトプットしていける人です。すごくレベルの高いものを求めています。フリーランスで働いているときに感じる混沌を会社の中で実現させている感じがします。
柳澤:お給料だけは毎月決まっているけれど、フリーランスの感覚に近いものがあると強い社員になれるのではないかと思います。
中土井:フリーランスの感覚を持って、会社で働く。それができているってすごいです。
佐藤:それは、ある意味すごいセーフティネットだと思います。カヤックの中では、実際にフリーランスで働くよりも、自由にチャレンジができる環境が整っています。社内で共有している価値観で、「失敗するなら最速で」という言葉がありますが、その言葉にも象徴されているように、失敗にもものすごく寛容です。
柳澤:失敗を引きずらない仕組みを作っています。評価はみんなで行い、その内容も全て公開されてしまうので、落ち込むこともあるかもしれません。でも、その評価が高速で何度も行われるので一度の失敗を引きずりません。
中土井:失敗に寛容だと聞くと、人間としての包容力とか優しさをイメージしますが、ちょっと違う感じがします。
柳澤:包容力があったり、優しさであふれている会社ではないと思います。失敗は引きずることなく、忘れていくんです(笑)。
中土井:自分が変わっていくことに注力しているから、人の失敗のせいで、足を引っ張られたという感覚にならないんでしょう。
柳澤:確かにそうだと思います。いい意味で、自分に集中している感はあるかもしれません。
中土井:やはり独立したフリーランスが集まって会社になっているイメージが湧きます。フリーランスの場合は、相手の失敗が原因でプロジェクトが失敗して、自分の売り上げが上がらなかったとしても、自己責任にせざるを得ない。いちいち引きずっていられません。それに近いものを感じました。
柳澤:確かに、誰かが失敗して、プロジェクトがだめになったとしても、失敗した人が追い込まれていくことはありません。
佐藤:良くも悪くも軽いんだと思います。成功も失敗もすごく気楽にとらえて、サイクルをどんどん回していく。その中から大当たりを探す感覚です。だから、失敗をひきずらないし、責めることもないんだと思います。
中土井:クリエーターが本能的に求めている環境を提供している感じがします。経営者としてのクリエーティビティが発揮されているからこそ、今のカヤックがあるのでしょう。
中土井:以前、社員の皆さんの前で話をしている柳澤さんの姿を見たことがあります。私はそのときに、社員への愛情を感じました。
柳澤:好きな人しか採用してないので(笑)です。でも、すごくフレンドリーで、ファミリーでアットフォームであるかというとそうでもないです。助けを求められたら助けるけど、基本的には自己責任でやる強い集団でありたいっています。
中土井:愛情を持っていると、その対象に対して、痛みの感情を抱くことがあると思います。「かわいそう」というような感情です。社員に対して、そのような痛みを感じるときはありますか?あるとしたら、どんなときですか?
柳澤:僕は、人間の力を信じているところがあって、一人で生きていけるだろうと思っています。例えば、代表の3人はお互い友達で、それぞれに人間として自信がある。そうなると、何とかなるだろうと思いあまり助け合わない。そういう意味の優しさはないですね。
社員に対しても同じです。よく言えば、その人を信じているのだが、悪く言えばドライです。どんなに苦しんでいても、まあ大丈夫だろうと思ってしまいます。苦しんでも苦しまなくても、どうせ大して変わらない。苦しむのではなくて、生きてるだけでいいやって考えたらいいのにと思います。
自分も含めて、常に全肯定していきたいし、そういう社会になればいいと考えています。ウィークポイントをつぶすよりも、その人が持っている強みだけ伸ばして、チームを組めればいいと考えています。
中土井:柳澤さんの人生観が少し見えたような気がします。柳澤さんは、社員を人として全肯定しているから、その人がその人らしくユニークネスを発揮できることに注力しているんだと思いました。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授