政府が「70歳就業」を掲げ、定年延長や継続雇用の動きが加速する昨今、定年は「ゴール」ではなく、新たな「再雇用」というステージの始まりに過ぎなくなった 。しかし、その実態はどうなっているのだろうか。
「自分は部長まで上り詰めたから大丈夫」「長年会社に貢献してきたのだから、定年後もそれなりの処遇で迎えられるはずだ」――。もしあなたが今、そんな風に考えているとしたら、その先に待っているのは「地獄」かもしれない。
政府が「70歳就業」を掲げ、定年延長や継続雇用の動きが加速する昨今、多くのサラリーマンにとって定年は「ゴール」ではなく、新たな「再雇用」というステージの始まりに過ぎなくなった 。しかし、その実態は、現役時代に華々しい実績を築いたエグゼクティブほど耐え難い、残酷な現実が横たわっているのだ。
本稿では、阪神電気鉄道でビルボード事業を立ち上げ、現在は独立して活躍する著者の体験談を元に、40・50代が今すぐ知っておくべき再雇用の真実と、そこから抜け出すための戦略を提言したい。
まず直面するのが、あまりにも急激な収入の減少である。一般的に、再雇用後の給与は定年前の「30%から65%」程度にまで落ち込む 。中には、提示したタイトルのように「4割減(60%支給)」で済めばマシな方で、実際には「最大6割程度にまで減る(40%支給)」ケースも珍しくない 。また、再雇用は1年契約の契約社員になることが多く、賞与はゼロ、又は大幅減額になり年収ベースでは更に減額になる。
大企業の部長職として年収2000万円を稼いでいた人物が、再雇用になった途端、現役時代の若手社員よりも低い給与を提示される 。仕事内容は定年前と大差ないにもかかわらずだ 。 「これまでの貢献は何だったのか」という憤りは、労働意欲を著しく低下させ、自己肯定感を削り取っていく。さらに、住宅ローンや子どもの教育費が残っている世帯にとって、この減収は文字通り「生活設計の崩壊」を意味するのである。
経済的な打撃以上に深刻なのが、精神的な「喪失感」である。 ある大手メーカーの役職定年を迎えた先輩の事例では、57歳で役職を失った途端、周囲の態度は一変した 。机はかつての部長席のままであっても、実質的には元部下のそのまた部下にあたるポジションに置かれ、表面上は敬語を使われながらも、軽んじられる扱いを受ける日々 。かつて高く評価してくれていた上司からも「新しい部署で頑張れ」と突き放される 。
ITmedia エグゼクティブの読者諸兄のような、リーダーシップを発揮し、組織を動かしてきたエグゼクティブにとって、「かつての部下に顎で使われる」状況は想像以上に過酷だ 。組織内でのアイデンティティを失ったシニアは、現場から「使いにくい、給与が高い、動かない存在」として扱われ、いつしかノイローゼに追い込まれるケースすらある 。
なぜ、これほどまでに残酷な現実が放置されているのか。それは、政府と大企業の対応の折衷案であるが、日本のサラリーマンが長年、「会社中心主義」という一種の宗教――「社縛教」に囚われてきたからだと 。
終身雇用と年功序列の中で、会社は単なる労働の場ではなく、生活の基盤であり、コミュニティのすべてとなった 。特に中高年層は「会社に尽くすことが人生の価値」と信じ、家庭や私生活を犠牲にしてきた 。 しかし、その信仰の対象であった会社は、定年というシステムによって、ある日突然、あなたを「余剰戦力」として放り出す 。会社の名刺という「鎧」を失ったとき、自分が何者でもないことに気づく。この空虚感こそが、地獄の正体である。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授