【第4回】世にもおかしな日本のIT組織(4)〜ダウンサイジングで追った夢の代償:三方一両得のIT論 IT部門がもう一度「力」をつける時(3/3 ページ)
1990年代後半の「ダウンサイジング」ブームは、ホストコンピュータをプラットフォームにしたシステム開発しか経験のないIT部門長には「打ち出の小槌」に見えたかもしれない。しかし、そこには思いもしない多くのリスクが潜んでいた。
IT部門のスキルを奪うアウトソーシングの実態
アウトソーシングというビジネスモデルには、さらに思いもよらないリスクがあった。
あるアウトソーシング会社と合弁でIT子会社が設立されたケースでは、仕掛けた側のアウトソーシング会社は契約した企業から従業員を受け入れるだけで、利益が出る仕組みになっていた。企業は利益を追求するのが目的だから、できる限り経費を掛けないようにするのが当然だ。
出来るだけ余計なことをせず、受託量だけを増やせばそれだけ利益が上がる。過去から積み上げてきたアウトソーシングのノウハウを生かして、効率的な管理ツールを導入し、システマチックにアウトソーシングを運営する。契約した企業に対しては、生産性の向上、品質の向上、要員のスキルアップに力を入れている振りをすれば、それで契約を履行していることになる。契約の満期まで大きな問題を起こさずに運営できれば、確実に黒字経営ができる。
当初は比較的有能な社員で運営されているのに、気が付くと平均以下のスキルしかない社員に入れ替わっていることはよくある話だ。ビジネスとしては評価される話でも、このアウトソーシングの実態を知ってしまうと、出向した社員のモチベーションは下がる一方である。
アウトソーシング会社に出向した社員は3年目もすると、徐々に外部へ流出していく。社内公募制度を利用する人、我慢しきれず転職する人、やはり有能な人材から外に出て行くのだ。
あるアウトソーシング会社のケースでは、大企業のIT部門の要員であれば、システムの実装経験も豊富で、しかもERPシステムの実装経験者も多く、これを社外向けのビジネスに転用すれば大きな案件を受注できると見込んでいることがあった。しかしこれは見込み違いだった。
大企業のIT部門の実態はレガシーシステムの保守メンバーが大半で、社外向けに活動できるようなスタッフはほんの一握りしかいない。しかもその一握りのスタッフも社内システムの開発も満足に行えず、外部のパートナーを頼っているのである。このような思惑が外れたアウトソーシング会社が世間にはごろごろ転がっている。
いずれもアウトソーシングの一般的な実情である。まさに、有能な人材の次々と流出する「負のスパイラル」がアウトソーシングの実態と言えるだろう。これは企業にとって切実な問題だ。IT部門から開発力や運用ノウハウが根こそぎ消えていくのだ。
プロフィール
ウイングアーク テクノロジーズ株式会社 協創企画推進室 岡 政次(おか まさじ)
三重県出身1959年生まれ。1977年シャープ株式会社に入社。本社IT部門に在籍、10年強の新人教育、標準化・共通システム化を担当。さらにシステム企画担当として、ホスト撤廃プロジェクト、マスター統合、帳票出力基盤の構築等に携わる。2007年4月、ウイングアークテクノロジーズ株式会社に入社。現在、経営・エンドユーザー・IT部門の「三方一両“得”」になるIT基盤構想を提唱し、「出力HUB化構想」を推進する。
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