【第12回】疲弊するIT部門(5)〜「気付きのスパイラル」戦略:三方一両得のIT論 IT部門がもう一度「力」をつける時(2/2 ページ)
企業システムのあちこちでおこるIT部門とユーザー部門の見解の相違。立場も言い分も真っ向からぶつかる。しかし、これからのシステムを考えるとき、システムと業務のギャップを埋めることから糸口を切り開かなければならない。
「IT部門は無能だ」とあきらめるユーザー
では、エンドユーザーは果たしてこの課題をどのようにとらえているのか。
エンドユーザーも現在のシステムがどうしてこのようなバラバラなサービスになっているのか、ここに至った経緯と理由を知っている人はほとんどいない。実はユーザー部門の要望どおりに構築されたシステムの集大成がこの姿だということは誰も知らないだろう。また、IT部門がどうしてこの不親切なシステムを改善しないのかも理解できない。
IT部門は無能だとあきらめてしまっているのだ。
この例で、何かが見えてこないだろうか。ユーザーニーズ(業務要件)を素直に実現しても満足度は得られないという不可解な関係に気付くだろう。果たしてユーザーは、本当に自分たちがシステムで実現しなければならないことをすべて分かっているのだろうか。分かってはいないのだ。いや、分からないと言った方が正しい。
企業も巨大化し、上層部の都合で組織がいびつになってしまい、業務担当者からは最適な業務の流れが見えなくなってしまっている。だから、業務部門にヒアリングし、それをうのみにして業務要件を整理しても業務の最適化が実現できるシステムにはならないのである。これが、要件どおりに構築したシステムが現場に評価されない大きな要因といえる。
現場は現場の都合で業務の流れを変化させて、次から次にシステムの改善要望を出してくる。この改善要望に終わりはない。誰も根本原因に目を向けずに、目の前の課題だけを解決しようとするからだ。
わたしはこのユーザーの行動心理をうまく利用すれば、高いユーザー満足度を得られるのではないかと考えた。エンドユーザーから見た良いシステムとはどういうものか。それは自分たちの要望を満足して、次々に出される改善要望にスピーディーに対応して、最も効率の良い業務スタイルを教えてくれるシステムである。
この「気付きのスパイラル」戦略のシナリオを描くことができ、システム構築時に導入後に出てくるだろう改善要望をシステム機能として盛り込んでおき、動的に機能をリリースできるように仕込んでおく。
このシステム定着後のユーザーも分かっていない最終仕様を予測する「行き着く先を読む力」がPMには重要であると思う。
プロフィール
岡政次(おか まさじ)
ウイングアーク テクノロジーズ株式会社 協創企画推進室
三重県出身1959年生まれ。1977年シャープ株式会社に入社。本社IT部門に在籍、10年強の新人教育、標準化・共通システム化を担当。さらにシステム企画担当として、ホスト撤廃プロジェクト、マスター統合、帳票出力基盤の構築等に携わる。2007年4月、ウイングアークテクノロジーズ株式会社に入社。現在、経営・エンドユーザー・IT部門の「三方一両“得”」になるIT基盤構想を提唱し、「出力HUB化構想」を推進する。
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