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【第15回】埋まらないシステムと業務の溝(1)〜ITをすぐ「システム構築」から考えない三方一両得のIT論 IT部門がもう一度「力」をつける時(2/2 ページ)

企業に情報システムを導入する目的は、ユーザー部門の仕事が便利になるからでもなければ、IT部門の自己満足のためでもない。企業が最大限の利益を上げるためだ。本質を見極めずにやみくもにシステムを入れても失敗する。

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直接的に利益が上がるIT投資

 しかし、現在はほとんどの業務のシステム化が出来上がっており、システム投資する部分は「戦略的」とか「見える化」というキーワードで表されるように、経営効果を挙げるものが中心になってきている。

 全体最適化と個別最適化の対応については、日本企業のコンピュータシステムは個別最適化が進んでいるため、全体最適化を進めなければならないとしばしば言われる。そこでSOA(サービス指向アーキテクチャ)化しましょう、ERP(統合基幹業務システム)パッケージで全体最適化を図りましょうといった話につながっていく。

 先に述べたように、IT投資の目的は利益の最大化であり、企業システムの全体最適化ではない。確かに全体最適化できれば、企業全体の動きが連結で見えるようになり、利益が上がる施策が打てるかもしれない。しかし、もっと直接的に利益が上がるところにIT投資する方が効果的である。

 企業が利益を得る仕組みといっても、1兆円企業となるとIT部門の企画担当では容易に提案ができない。では、現場の人たちの課題提起や提案は利益につながるのか? 確かに利益アップになるかもしれない。しかし、それが最も効果的な仕組みづくりかというと、ほとんどが局所的なコスト削減であったり、作業の効率化であったりしている。その活動を否定するつもりはないが、細分化された組織の中しか見えなくなっている状況だ。

システムのあるべき姿と業務の最適化

 極論を言うと、例えば製造業の最適化モデルは、在庫ゼロ、リードタイムゼロの受注生産モデルだと思う。一般的にリードタイムを縮めようと思うと在庫を持たなければならない。在庫をゼロにするとリードタイムが伸びて販売機会の損失になる。これを解決しよう考え出されたのがSCM(サプライチェーンマネジメント)である。製造業や販売業はこぞってシステム導入を図ったものの、なかなか効果が出せていないのが現実ではなかろうか。その最たる原因は、業務のボトルネックをつぶさずにシステム化だけを進めようとするからではないかと、わたしは考えている。

 システムとは、人間が行う作業の時間短縮、遠隔地にある拠点の距離を縮める、作業品質を向上させることしかできない。販売予測といっても、シミュレーションを高速に繰り返すことだ。本質の業務の流れが最適化され、ボトルネックが解消されない限り、現状の設備や組織体制での利益の最大化は望めないのだ。

 現在のIT部門に望まれることは、業務をふかんして現状のリソース(人、物、金、情報)で最大限の利益を上げる組織やワークフローをつくることだ。その上で、時間を短くする、大量の計算をする、距離を縮めるといった部分をシステムに任せ、人間が行った方がよい部分は残す。こういう基本的な考え方で既存のシステムの存在を肯定して、機能の改善やシステムと人の関係、システムとシステムの関係を最適化していけば、企業システムのシステム化がどうあるべきかが見えてくる。

 では、業務の本質とはどのようなものなのだろうか。

 トヨタのカンバン方式は製造業であれば誰もが知っている。多くの企業がその手法を取り入れようとしている。しかし、トヨタと同じような効果が上がるところまではなかなか行き届かない。それは、その本質が分からないからだと思う。徹底的に無駄を省いて、時間とコストを削減する。その上、最高の品質を保証する究極の方法論がカンバン方式である。人が常に無駄をなくそうと考えて動くからこそ、生きる仕組みだといえる。

 「人づくり」なくして、業務の全体最適はなく、業務の全体最適ができていないところにシステムの全体最適は実現しない。

プロフィール

岡政次(おか まさじ)

ウイングアーク テクノロジーズ株式会社 協創企画推進室

三重県出身1959年生まれ。1977年シャープ株式会社に入社。本社IT部門に在籍、10年強の新人教育、標準化・共通システム化を担当。さらにシステム企画担当として、ホスト撤廃プロジェクト、マスター統合、帳票出力基盤の構築等に携わる。2007年4月、ウイングアークテクノロジーズ株式会社に入社。現在、経営・エンドユーザー・IT部門の「三方一両“得”」になるIT基盤構想を提唱し、「出力HUB化構想」を推進する。


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