隣に座っている部下の価値観を知っているか?:問われるコーチング力(2/2 ページ)
数々の功績を残した王監督率いるソフトバンクホークスと「ディズニーランド」を運営するオリエンタルランド。双方の組織に共通するのは、すべてのメンバーがお互いの価値観を把握していることだという。
組織の価値観の作り方
「価値観リスト」を使って、チームや組織の価値観を作り上げることができる。手順は次の通りである。
(1)組織の発展のために重要な「組織の価値観」は何か、1位から3位まで各自記載する。
(2)各自が考えた組織の価値観を、ホワイトボードに書き出す。
(3)各自が考えた組織の価値観を、その背景を含めて発表する。
(4)全員で議論して組織の価値観を決める。
個人の価値観とは異なり、組織の価値観を作るには時間がかかる。個々人の組織に対する思いや仕事観などがぶつかり合うために、時間はあっという間に過ぎてしまうはずだ。
アウトプットされた価値観によって、その業界の特徴が浮き彫りになることがある。例えば、鉄道会社やエレベーター会社では、どのような価値観を重視する傾向にあるだろうか。よくいわれるのが「安全」である。お客さんを「ここ」から「目的地」まで、間違いなく移動させることが彼らの仕事であり、問題があってはならない。入社以来、耳にたこができるほど安全に関する話を聞き、研修を受けているはずである。安全という価値観が、仕事にも自分の中にも落とし込まれている結果だ。
もし鉄道会社が「金銭」という組織の価値観を最も重要としていたら、あなたはその会社の電車に乗りたいと思うだろうか。組織が利益を確保するために事故防止設備を十分に整えていないとなったら、電車に安心して乗ることができるだろうか。これは非常に極端な例だが、組織の価値観を作ることの重要性が分かる例だと思う。
人々の心をつかむディズニーランド
組織が価値観を共有する成功企業として、ディズニーランドを運営するオリエンタルランドを紹介する。今年25周年を迎えるディズニーランドは、ほかの遊園地が相次いで閉鎖する中で1人勝ちを収めている。リピーターとなるファンも多いという。人々の心をつかんで離さない理由は何か?
わたしは、働く人たちがディズニーランドの価値観を共有し、生き生きと仕事に取り組んでいるからだと思う。オリエンタルランドは、企業使命として次のことを掲げている。
自由でみずみずしい発想を原動力に
すばらしい夢と感動
ひととしての喜び
そしてやすらぎを提供します。
行動指針として、次のことを掲げている。
1. 探求と開拓
2. 自立と挑戦
3. 情熱と実行
(以上、同社サイト「企業理念」より抜粋)
この企業使命と行動指針を社員全員が共有して仕事に取り組んでいる。常に新しいことを探求して挑戦し、情熱を持って客と接することで、夢の世界を演出し人々に生きる喜びを提供する。それがファンの心をつかむ理由である。
王監督が率いたソフトバンクも、オリエンタルランドも、価値観を徹底的に追求し、組織に属する全員が情熱を持って真剣に仕事に取り組んだのである。組織の価値観を作り、それを共有かつ実践する仕組み作りを、ぜひリーダーは考えてほしい。
プロフィール
細川馨(ほそかわ かおる)
ビジネスコーチ株式会社代表取締役
外資系生命保険入社。支社長、支社開発室長などを経て、2003年にプロコーチとして独立。2005年に当社を設立し、代表取締役に就任。コーチングを勤務先の保険会社に導入し、独自の営業システムを構築、業績を著しく伸ばす。業績を必ず伸ばす「コンサルティングコーチング」を独自のスタイルとし、現在大企業管理職への研修、企業のコーポレートコーチとして活躍。日経ビジネスアソシエ、日経ベンチャー、東商新聞連載。世界ビジネスコーチ協会資格検定委員会委員、CFP認定者、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師。
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