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【第5回】ぶれない経営――不況期のブランド戦略を考える石黒不二代のニュースの本質(2/2 ページ)

未曾有の不況に直面し、改めて「サステナブル」を掲げる企業は多い。ただし価格競争に陥り、安易に安売り戦略に走ってしまうと、これまで積み上げてきたブランドイメージは崩壊してしまうという。

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なぜAmazonは強い?

 ブランドを考える意味で、この2つを同時に実現している企業があるので紹介しておきます。今更ながら、Amazon.comです。Amazonの2008年第四半期(10〜12月期)の売り上げは67億ドルに達し前年比で18%、純利益は2億2500万ドルで9%伸ばしています。Amazonは、2008年のホリデーショッピングを「史上最高」の売れ行きと賞賛していました。クリスマス商戦のピークとなる12月中旬の日、630万個の受注高に達しました。これは、1秒あたり72.9個の注文に等しい計算となっていたのです。第1四半期の業績は純利益が前年の1億4300万ドルから1億7700万ドルと、24%増を記録しました。売上高も、18%上がり48億9000万ドルとなりました。

 では、Amazonが安売りによって不況期の勝者となり得たかというと、決してそうではありません。Amazonの創業時からの軌跡の一部を紹介しましょう。


・1994年世界一のオンライン書店をつくるとしてJeff Bezos氏がAmazonを創業

・創業当時からAmazonは世界最強の顧客主導型企業をビジョンに掲げる

・ビジョン達成のためには、莫大なIT投資が必要、当時の株主に5年間は赤字を宣言

・世界最大の書籍卸業者Ingram社を6億ドルで買収。書籍の80%を翌日配送できる力を手に入れた

・製品ラインアップを拡大、書籍から、CD、DVD、ゲーム、電化製品など世界のデパートを目指す

・アフィリエイトサービスの開始により販売網を拡充

・無料配送の開始

・Amazonのシステム投資は、ハードウェアやよく知られるレコメンデーション・パーソナライゼーションにとどまらない。特異な物流センターシステム、ロングテールを徹底的に解析するSEOなど常にインターネットの最新技術をシステムに取り入れている

・積極的なディスカウント


 Amazonは、常にアナリストたちの批判の対象になってきた会社でもあります。ドットコムバブルの時代に、IT企業が急激な勢いで成長を遂げる中、Amazonの堅調な成長は投資家にとっては不評でした。巨額なシステム投資を継続的に続けていかなければならなかったAmazonは、永久に利益を出せない会社とも呼ばれました。Ingramの買収は、その買収価格ゆえ、また、出版社との直取引を阻害すると危惧(きぐ)されました。

 無料配送も、当初は、利益を圧迫すると批判の対象となっていました。安価な製品が好まれる不況期において、歓迎されるべく積極的なディスカウントこそ、同社が長年主張してきた基本政策です。アナリストは、当初このディスカウント政策が利益率に悪影響を与えると予想しましたが、結果はこの不況期に類を見ない営業利益率を達成しています。

 不況期の一人勝ちと言われるAmazonは、他に類を見ないディスカウントを単に安易な価格政策で実現したことでないのは、この歴史を見れば一目瞭然です。ブランディングとは、徹底したビジョンへのコミットメントにより達成されるものです。成長の利益を継続的に投資にあてがい、顧客至上主義を貫く「ぶれない経営」こそが、Sustainable Companyへの道を切り開くものでした。

 最後に、決して安価ではない製品により不況期に成長を続けている企業を紹介します。米Appleは、3月28日に終わった第2四半期の業績発表で、純利益15%増とアナリストを驚かせました。iPodiPhoneともに売り上げは好調です。Appleは、経営者の交代により、途中、紆余曲折を経験したものの、創業当時のSteve Jobs氏とその復活後の経営においては、徹底的なブランディングを打ち出し、決してぶれない経営を続けています。安価でなくても不況期に強いブランドは顕在です。


プロフィール

石黒不二代(いしぐろ ふじよ)

ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 兼 CEO

ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転などに従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためWebを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。



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