“理想の上司像は?”は、冗談デショ:生き残れない経営(2/2 ページ)
リーダーシップとは、人間の視点を高め、成果の基準を上げさせ、人間の人格をして通常の制約を超えさせるものである。
産業能率大が行った上記調査で、新入社員が上司に求める「指導スタイル」と行動特性を表す「ソーシャルスタイル」について、指導スタイルは「まずは任せてみて、進めながらやり方を細かく指導するタイプ」、ソーシャルスタイルは「支配性が低く、感情は開放的な友好型」が最多だった。
有名人にたとえた理想の上司像にも表れていたように、新入社員は上司に対して近づきやすさ・親しみやすさを求めているようだ。これを、産能大が「現実のマネジメントの現場で参考に」と勧めること自体が情けない。新入社員にこびることなく、マネジメントの在り方を厳しく教育するのが、企業や上司の務めではないのか。
エイブルの真面目な取り組みの例がある。2010年2月の管理職定例会議で、上司・管理職の理想のタイプをリストアップした。リストに挙がったのは、例えば1.目標をまとめ上げる力がある、2.部下の業務内容を把握している、3.有言実行、4.部下の相談に乗れる、5.自分の理想像を持っているなどで、この議論を参考に人事考課表を改定した。
考課要素大分類には、態度考課・能力考課・業績考課があり、例えば態度考課には積極性・責任感・経営課題・コスト意識があり、さらに例えば積極性の着眼点として「管理職として率先垂範して、より高い目標、構造体質的課題に挑戦したか」と記されている。質の高い内容であり、理想の上司像を議論するときの参考になる。
なぜ有名人に例える理想の上司像がダメなのか。
1.人気稼業とマネジメントという異質の比較が、最初から間違っている(焦点外れ)
2.テレビの中でのタレントの雑多な会話で、マネジメント力が分かるはずがない(誤解)
3.ドラマで演ずる役柄と、有名人本人とを混同している(混同)
4.有名人のイメージは、視聴者が各自勝手に都合の良いように作り出している(虚像)。
単なる遊びで「有名人にたとえた理想の上司像」を列挙させるのなら許せる。それにしては、アンケート結果に対する議論があまりにも真面目すぎるから困ったものだ。そういう議論は、新入社員にビジネスの現場の誤解を与えること以外の何物でもない。新入社員に対する教育上、誠によろしくない。一方、思慮の浅い世の上司が、仮にこれら調査のアドバイスを真に受けるとしたら、マネジメントの崩壊をきたす。上司が、部下に迎合することはない。人気商売ではないのだから、部下は「どんな上司を望んでいるか?」など過度に考えずに、「上司はどうあるべきか」を考えるべきだ。
マネジメントの現場がそんなに甘くないことは、アンケート主催者も分っているはずだ。また、ドラッカーの名言を引用しなければならない。
「マネジメントが本気であることを示す決定打は、人事において、断固、人格的な真摯さを評価することである。なぜならば、リーダーシップが発揮されるのは人格においてであり、多くの人の模範となり真似されるのも、人格だからである」
「リーダーシップとは、人をひきつける個性(そのようなものは、単に煽動的資質にすぎない)ではない」
また「仲間をつくり、人に影響を与えること(そのようなものは、単なるセールスマンシップにすぎない)でもない。リーダーシップとは、人間の視点を高め、成果の基準を上げさせ、人間の人格をして通常の制約を超えさせるものである。そのようなリーダーシップの素地として、厳格な責任についての原則、高い成果の基準、人と仕事に対する敬意を、日常の仕事において確認するというマネジメントの文化に優るものはない」(P.F.ドラッカー「現代の経営」ダイヤモンド社)
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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