見返り?お返し?それとも……:ヘッドハンターの視点(2/2 ページ)
ヘッドハンターを続けられた大きな理由の一つは、無責任なようですが、「自分がいつも正しい訳ではない」という当たり前のことに気付いたからでした。
ところが、ITバブルが弾けて、ほとんどの人が業績目標を達成しなくなった時、問題が起こりました。多くの外資系日本法人では高い基本給がビジネスを圧迫し、80:20で給料を支払うことは困難になり、本社は日本でのビジネスを存続させるため他の国と同様に日本法人でも50:50などを適応することを決めました。それまで80:20で給料をもらっていた日本の社員にとってはOTEが同じでも月々の給料は35%以上減額になる計算です。当然これには「バブルの時にはボーナスが他の国より低くても制度だから我慢したのに、この仕打ちはひどい。やってられるか!」と抗議する人もいました。本社側は「この機会に日本法人もグローバルスタンダードの給与制度に合わせる!」と言って、新制度に反対する人に無理に残ってもらうより、50:50でも喜んで仕事をしてくれる人を探し始め、転職市場は活発になりました。この時、わたしは日本人の給与のとらえ方についてチップと心づけの違いを例にして説明し「お返し文化の日本にはそんな制度は合わない!」と力説していました。
実際はITバブルが弾けて大企業もリストラを実施したことで、50:50でも喜んでオファーを受ける人がたくさん出てきました。事実、当時わたしがお手伝いした採用で最もアグレッシブだったオファーは基本給:ボーナスが40:60でしたが、大企業を退職してこのオファーを受けたDさんは「自分はやるべきことをやるだけです」と言っていました。そして1年後、採用担当だった本社役員からDさんがすばらしい業績を出したとの連絡をもらいました(もちろんDさんは40:60のアグレッシブなスキームによりOTEよりもはるかに高いボーナスを受取りました)。(Dさんには失礼なことに……)わたしはこの結果に驚くとともに、「こんな制度は日本に合わない!」と力説していた自分が正しくなかったことが、とてもうれしく思えました。この時もDさんは「自分はやるべきことをやっただけです」と言っていました。わたしがこだわった見返りかお返しかなど、彼にとっては関係なかったのです。
転職には多くの未知数があります。絶対成功する保証はどこにもありません。ヘッドハンターとして人事を尽くした後は転職した人の力を信じるしかありません。もし彼らの力を信じずに、自分がいつも100%正しいと確信していたら、心配で胃が痛くなってヘッドハンティングの仕事は続けられなかったと思います。長い間ヘッドハンターを続けられたのはDさんのようにわたしの想像よりもはるかに柔軟で、はるかに優秀で、はるかに強い人が日本にはたくさんいることに気付いたからです。そして、これからもわたしたち日本人は世界中の人達の想像をはるかに超えた“日本人らしさ”で世界を驚嘆させ続けることを強く信じています。
著者プロフィール
岩本香織(いわもと かおり)
USの大学卒業後、アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア)入社。東京事務所初の女性マネージャー。米国ならびにフィリピンでの駐在を含む8年間に、大手日系・外資系企業のビジネス/ITコンサルティングプロジェクトを担当。 1994年コーン・フェリー(KFI)入社、1998年外資系ソフトウェアベンダーを経て、1999年KFI復帰、テクノロジーチーム日本代表。2002年〜2006年テクノロジーチームAsia/Pacific代表兼務。2010年8月KFI退職。2010年9月より現職。
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