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今そこにある危機藤田正美の「まるごとオブザーバー」(2/2 ページ)

民主党政権は東海地震を懸念して浜岡原発を停めたけれども、日本を覆うリスクは地震だけではない。外にはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)参加問題に表れているような国際競争力の維持、そして中国海軍の外洋進出と南シナ海の安全という問題がある。

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回復する道筋を明らかにすること

 ギリシャをどう救済するのか、意見は分かれている。歳出をカットするというのが正論ではあるだろうが、ギリシャのように労働者の6割が公務員と言われる国では政府の歳出カットはすなわち失業者の増加を意味する。当然、抗議活動はエスカレートし、社会不安が生まれる。かといって、今度の首脳会議で議論されるような銀行など貸し手に負担を求める(要するに債権カット)ようなことをすれば債務危機がますます悪化するかもしれない。ドイツがギリシャを支援するというのは、ドイツ国民の反発も強い。もちろんギリシャをドイツが支援するようなことになれば、それを契機にマーケットが、他の国、とりわけスペインやイタリアなどについても救済を要求する可能性もある。そうなったらとてもドイツだけで賄えるものでもない。そしてその時には懸命に維持してきたユーロが終わるときでもある。

 ヨーロッパの状況と日本の状況は異なる。日本はGDPの200%近い借金を抱えているとはいえ、まだ経常収支は黒字。国の赤字は何とか自分たちで埋めることができる。とはいえ、実際にはどこまで楽観できるのか、誰にも確かなことは言えない。しかし5年というぐらいの期間で見れば、ほぼ確実に日本の債務危機はやってくると思う。毎年40兆円もの国債を発行し続けることが可能とはとても思えない。

 だからこそいま必要なことは、とにかくプライマリーバランス(政策経費を税収で賄える状態)を回復する道筋を明らかにすることだ。政府・与党が6月30日に発表した「税と社会保障の一体改革成案」を見ても、財政再建の現実的なロードマップというよりは、単なる希望的観測が描かれているだけのように思える。消費税の増税についても、民主党内の反発に配慮して2015年ではなく2010年代の半ばと表現を濁した。

 もちろん個々の議員にしてみれば、増税すれば次の選挙で自分が落ちてしまうという危機感もあるのだろうが、増税と歳出カットという有権者に不人気な政策を取らなければ、日本の財政、経済が破綻して、国民はもっと大きな苦しみを味わうことになる。そのリスクが日に日に増していることがはっきりしているのに、政治家はあえてそこに目をつぶろうとしているかのようだ。

 原発は絶対安全だと言い続けてきたために、原子力のことをよく承知しているはずの関係者も、原発が絶対安全だと思い込んでしまった。そしてフクシマが起きた。日本経済は大丈夫だと言い続けているうちに、そのリスクもなくなってしまうのだろうか。いざマーケットが反乱を起こしたときに政府が慌てて対応策を打ち出しても、市場の勢いには勝てない。民主党も自民党も、国会で足の引っ張り合いをして「政治の空洞化」などと揶揄されている場合ではあるまい。もちろn経済に「うとい」菅首相には早く退場してもらわなければいけないのは自明である。

著者プロフィール

藤田正美(ふじた まさよし)

『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。


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