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入社10年目の羅針盤ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

社会全体に閉塞感が漂うなか、自分の仕事に意義や楽しさを感じることが難しくなっている。上を目指すだけでは見えてこない、自分が自分らしく働くための思考法とは?

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自分がどう生きるべきか

 多くのビジネスリーダーを輩出するハーバード経営大学院で、このようにビジネス以前の「生き方」に関する問いかけがあるということは、それだけ勘違いをしてしまう学生が多いからなのかもしれない。ハーバードを卒業したからといって必ずしもそこに明るい未来が待っているわけではない。そんなメッセージを突きつけられているようだった。僕は自費留学だったこともあり、留学中の時間を一分たりとも無駄にはできなかったが、会計やマーケティングの勉強以上に「自分がどう生きるべきか」を考えることが重要なのだと思った。

 いくら勉強ができても、いくら仕事ができても、その人の人生が豊かであることとはイコールではない。そのことは大学が独自に行なっている卒業生たちの追跡調査からも読み取ることができた。仕事に没頭しすぎて離婚してしまった人、不幸にも子供を亡くしてしまった人、重い病気を患ってしまった人。高い学費を払い、難関と言われるハーバードを卒業しても、このように誰にでも起こり得る運命的な出来事のほうが、その人の人生を大きく左右している。ハーバードを卒業するような人ほど、その時の無力感、挫折は大きいかもしれない。最後の最後で問われるのは知識量や会社でのポストなどではなく、その人がどう生きるか、なのだ。

 「入社10年目の羅針盤」は、自分がどう生きるかを考えるきっかけを散りばめたつもりだ。入社10年目というと、30歳前後の若手ビジネスパーソンにあたる。経験を重ね、スキルも身についている頃だが、責任も与えられ、部下を束ねている人もいる。私生活でも結婚や出産を意識するなど、考えることの多い年代だ。若い頃はただがむしゃらに進めばよかったかもしれないが、30代以降はしっかりと方向を定めて進んでいかなくては目的地にたどり着けない。うまくいかない時、つまらない仕事をしなければならない時もあるだろう。しかし自分の目標が定まっているのであれば、それを平然と乗り越えていく術も必要だ。

 失意泰然(しついたいぜん)、得意淡然(とくいたんぜん)。

 うまくいっていない時こそどっしりと構えよ、うまくいっている時こそ謙虚であれ、といった意味合いの言葉だ。この本でも紹介している。

 ライフネット生命を社長の出口治明と2人で立ち上げ、仲間を集め、お客さまを獲得していくその過程で、いい時期も悪い時期もあった。悪い時期というのは何をやってもうまくいかない。広告を打っても、街頭でビラ配りをしてもなかなか契約が増えない。しかしそんな中でも僕は、目の前の仕事を楽しもうとしていた。この仲間と仕事をしていれば、必ず事態は好転する。トンネルはいつまでも続かないはずだ、と。実際、ライフネット生命が保険料の原価開示をした途端、それがネットメディアで取り上げられて共感を呼び、契約数が増えたこともあった。失意泰然であることがよしと証明された出来事だ。

 この本のタイトルには「入社10年目」とあるが、書いてあることは実は入社10年目までに身につけておくべきことばかりだったりする。しかし入社10年目以降に悩むことは、初心に戻ることで解決することも多い。そういう意味では、うまくいかない時、悩んでいる時に再び開いてもらいたい一冊だ。何かヒントが見つかるかもしれない。この本には僕が背中を押された言葉をいくつも紹介しているが、それが誰かの背中をそっと押してあげることにもなれば、これ以上の幸せはない。

 例えば今、地方は人を欲しがっている中小企業がたくさんある。最近の若者は東京の大企業で働きたがる傾向があるが、本当は地方に自分を生かすチャンスが眠っている。東京だけでなく、地方も視野に入れることで可能性がぐんと広がるのだ。こうして考え方を少しだけ柔軟にすることで楽しい職場を手に入れることができるし、今の仕事がつまらなくてもそれを楽しむ方法だって見つけることができる。一度きりしかない人生、それを楽しくするかどうかは自分の考え方一つにかかっている。

著者プロフィール:岩瀬 大輔

1976年埼玉県に生まれ、幼少期をイギリスで過ごす。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストン・コンサルティング・グループ、リップルウッド・ジャパンを経て、ハーバード経営大学院に留学。同校を上位5%の成績で卒業(ベイカー・スカラー)。2006年、ライフネット生命保険の設立に参画。2009年2月より現職。

世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」選出。日経ビジネス「チェンジメーカー・オブザイヤー 2010」受賞。

主な著書に「ハーバードMBA留学記 〜資本主義の士官学校にて〜」2006年(日経BP社)、「生命保険のカラクリ」2009年(文春新書)、「ネットで生保を売ろう!」2011年(文藝春秋)、「入社1年目の教科書」2011年(ダイヤモンド社)、「入社10年目の羅針盤」(PHP研究所)など。論文に「規制緩和後の生命保険業界における競争促進と情報開示」2011年(保険学雑誌 第612号)。


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