時代の転換点に必ず起きること――「危険」を指摘する連中が一番「危険」である:Gartner Column(2/2 ページ)
次代に生き残る企業になるためには、イノベーションが必須である。しかし、そのイノベーションの芽を「何となく危険」だからという理由で、摘み取っていないだろうか。
SaaSを導入していますか?
SaaSといっても、いろいろなサービスがありますから、何のことを指しているのか? と思うかもしれません。別に難しい話をしようというわけではありません。ここ2〜3年くらい、便利なサービスが、次々と登場しています。自前で作るよりもはるかに便利で、はるかに高品質ないろいろなアプリケーション(サービス)が、圧倒的な安値で提供されています。
わたしの知る限り「あっ」と驚かされるほどのSaaSは、ベンチャー企業により提供されているものも多く、読者の皆さまの目に触れる機会も少ないかもしれません。「クラウドは"危険"だから当社では、採用を見送っていて、プライベートクラウドを構築するように計画しているのですよ。」と、言う方が少なくありません。ここでも、やはり「危険」なのだなと思わずにはいられません。競合他社が、SaaSを先に導入して先行者利益を手にしたらどうしますか? えっ?SaaSには、競争優位性を確立するようなアプリケーションはないって? そう、その通りですが、採用しない機会損失は明らかに存在します。そちらのほうが、わたしには「危険」に見えますがどうでしょうか?
どんな時代にも抵抗勢力はある
インターネットで証券の売買ができるのが、当たり前の世の中ですが、これも黎明期は、「危険」だと言ってなかなかサービスを提供させてもらえませんでした。当時、証券業協会の協会長を務めていたある大手証券会社が、最初にインターネットでのホームトレードに着手しました。その後、最大手の証券会社が、ISP(インターネットサービスプロバイダ)を限定して提供を開始しました。
ある証券会社のシステム企画部において、米国市場におけるチャールズシュワブやe−トレードなどネットトレード中心の証券会社の隆盛を調査・研究をしていたわたしは、インターネットホームトレードを、国内では他社に先駆けて導入すべしと叫んでいました。そんな、わたしのところに、次の指示が舞い込みました。「最大手の方式を採用して、当社もインターネットトレードを開始するように」と。インターネットは危険だし、最大手と同じ方法ならば安全に違いない。もし、何か問題が発覚しても同じ方式だということであれば言い訳もできると言われた記憶があります。
もう15年以上前の話ですし、なくなってしまった会社のことなので時効だと思って(恥を忍んで)話しました。今、この話をしたら、皆さんが笑い飛ばすでしょう。「危険」だからと言う人は、(昔の)知識もあり、権力もあり、思慮深い。わたしが勤めていた証券会社では、「インターネットが海外と同じように隆盛を極めたら、店舗とそこで働く従業員を多く持つ大手証券は、皆、不良資産を抱える企業に転じてしまう。自らが、その方向に歩み出すのはいかがなものか……」と考えていたとも聞きます。この話も、今となっては笑い話です。
ところで、このコラムの読者の皆さまはインターネットの電子メールを社内で使えますか? インターネットホームトレードが黎明期だった時代に、「インターネットの電子メールは危険だ」と言われて、使用禁止していた企業が圧倒的多数だったと記憶していますが、貴社もそうではありませんか?インターネットホームトレードでは、暗号の鍵長が変更されたこともあり、技術的な進化を遂げたので、「危険ではなくなった」と言われたのですが、電子メールは、「危険だ」と言われていた時代から、何も変化していないのです。誰が、何時から、危険ではないことにしたのでしょうか。あの時に、大反対していた人は、今、どこにいるのでしょうか?
新しい時代の幕開けには、「危険」がいっぱいです。あと、数年もすれば、何ら危険性は変化しなくても、何もなかったかのように、皆が当たり前のように使い始めます。誰が「危険」だと言って、新しいことをしようとする人達の邪魔をするのでしょうか?
読者の皆さんも、Facebookでわたしにお友達申請をしてください。「ITmediaを見ています」とメッセージを頂ければ驚いたりしないで、承認しますので、どうぞご遠慮なく。もちろん、ご意見をいただけるならなおありがたいです。そうですね・・・ITmediaでお友達になった人が10人以上になるならば、エクスクルーシブなグループを作って情報交換をしましょうか・・・。などと、夢が膨らんだりします。どうぞ、お気軽に。
えっ?「わたしは、バーチャルな付き合いには興味はない。古い人間と言われようとも、直接会って話をしないと気が済まないのだ。だから、SNSを利用しましょうなんていうやつは許さない。」これを言ったあなた……かなり「危険」です。
著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー
2006年にガートナー ジャパン入社。CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」において企業のCIO向けアドバイザーを務め、EXPメンバーに向けて幅広い知見・洞察を提供している。近年は、CIO/ITエグゼクティブへの経営トップからの期待がビジネス成長そのものに向けられるなか、イノベーション領域のリサーチを中心に海外の情報を日本に配信するだけでなく、日本の情報をグローバルのCIOに向けて発信している。
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