デジタル・ワールドを勝ち残るための方程式――Gartner Symposium/ITxpo 2013のテーマに寄せて:Gartner Column(2/2 ページ)
これらのデジタル・テクノロジは、「顧客経験価値」を高めるため利活用されるべきだ。世界中のCIOが顧客経験価値を向上させて「競争優位」を確立するためにデジタル・テクノロジを活用したいと考えている。
顧客の不満にフォーカスする
顧客経験価値を高めるための王道は、「自社への不満」に耳を傾けることです。顧客の声に耳を傾けるという、ビジネスをしていれば当たり前のことだが、この当たり前のことが前述のコールセンターの例の通り、難しいのです。難しい理由はいくつかありますが、私は大きく2つの原因を挙げています。1つ目は、顧客の声に耳を傾けて、自社への不満に前向きに対処することを「是」とし、経営からも奨励しているかどうかです。「顧客からの要望に全て対応していたらキリが無い」と言う経営者も少なくないと思いますが、この態度は、あまり適切ではありません。
組織のトップに近い人が、こういうセリフを部下に向かって言ったら部下は、顧客からの声には耳を傾けようとはしません。本音では、キリが無いと思っているのかもしれませんが、組織内では必ずこう言わなければなりません。「顧客の声に耳を傾け、特にわれわれの耳に痛い声を聞き逃さないで、しっかりと報告して欲しい。顧客からの不満の声は、われわれにとって宝物ですから」と。組織内で、顧客の不満の声に応えようとする文化を醸成しなければ、宝物を手中に収めることはできません。「コストをいくらかけても顧客は、満足しない」なんて言わないで、顧客が本当に求めていることは何か? 他社で真似できない自社だけの強みを発揮するチャンスを生かすことは、イコール、競争優位を確立することに他ならないのです。
組織構造が顧客の声を遮断する
読者の企業・組織は、営業部やサービス部門(コールセンターを含む)など顧客と近い位置にある部門が、事業部の中に存在するのでしょうか? それとも、事業部とは別々の組織になっているのでしょうか? 製品・サービスを提供する事業部は、顧客の声を直接的に聞くことは組織構造の関係で少なくなります。だからこそ、営業部やサービス部門を事業部の中に持とうとする動きも容易に理解できます。もし、あなたの企業・組織に事業部の中に営業部やサービス部門があれば、顧客の声に耳を傾けようとしている組織だと評価するに違いないでしょう。しかし、それは大きな間違いです。
ことに顧客からの不満の声を事業部に届けるつもりならば、営業部やサービス部門は、別の組織にして、当然ながらその長は事業部長との兼任を避けなければいけないのです。理由は簡単です。事業部は、製品やサービスを作って販売しなければならないが、それこそ前出の「キリがない」ではないが、顧客の言うことよりも、製造(サービスデリバリ)サイドの理屈が優先されるのです。製造コストを無視して販売価格を決めることはできないし、同様に機能を向上させることもできません。まずは、事業者サイドの理屈が通るのです。そのことを知っているので、営業部やサービス部門は、事業部長に生のお客さまの声を届けようとせず、最初から諦めて報告もしなくなるのです。しかし、営業部やサービス部門が事業部の外側にあれば、少なくとも顧客の声が事業部長には届くことになります。
不思議なことに、顧客の声を聞きたくて手元に営業部やサービス部門を設置したら、聞こえなくなり、外側に置いたら顧客の声、特に不満は、よく聞こえるようになるのです。顧客からの不満の声は、物理的な距離と反比例して聞こえるようになるという奇妙な現象が実際には起こるのです。これが2つ目の原因です。
ちなみに、このことは、営業部やサービス部門(コールセンターを含む)を事業部の中に置いてはならないということを意味している訳ではありません。プロダクトアウト型でマーケットに新たな提案をしていくビジネス形態では、営業部やサービス部門は事業部内にある方が良いことが多いからです。
「顧客からの不満の声」に耳を傾けるということから顧客経験価値を高めていくヒントをもらおうとする施策でさえ、マネジメントの細心の注意を払わなければ、うまくいかないことを理解してほしい。
さて、10月15日(火)からGartner Symposium/ITxpo 2013が東京都港区のANAインターコンチネンタルホテル東京(旧東京全日空ホテル)にて開催されます。海外からのガートナーのトップアナリストも参集しますが、今年はそのひとりとして、デジタル・テクノロジを駆使してCX向上のための施策について、日本では初めてのセッションを担当する弊社最上級アナリストのエド・トンプソンも招聘しています。デジタル・テクノロジを駆使してビジネス成長に貢献したいと考えるCIO・ITエグゼクティブの皆さまの来場を心からお待ちしています。
著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー
2006年にガートナー ジャパン入社。CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」において企業のCIO向けアドバイザーを務め、EXPメンバーに向けて幅広い知見・洞察を提供している。近年は、CIO/ITエグゼクティブへの経営トップからの期待がビジネス成長そのものに向けられるなか、イノベーション領域のリサーチを中心に海外の情報を日本に配信するだけでなく、日本の情報をグローバルのCIOに向けて発信している。
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