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固定観念にしばられず顧客経験を活用した創造を目指す(2/2 ページ)

医療関連や子ども用品など、多くの商品がユーザーの経験に基づいて開発される機会が増えている。顧客経験とユーザーイノベーションには、どのような関連性が存在するのか。この分野の第一人者である法政大学の西川英彦教授が語る。

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調査型で売上増へ

 探し出すことが難しいイノベーションを見つけ出すために有効なのが、リードユーザー法による調査型である。たとえば近年、主婦の間で爆発的な人気となったマスキングテープがこれにあたる。マスキングテープとは、これまでは工事現場などで、ペンキを塗るときに余分な場所にはみ出さないようにするために使われるものであった。

 このマスキングテープのカラフルな色、どこにでも貼れてきれいにはがせる特性を生かし、家庭内でラベルの代わりに使うという想定外の利用法が家庭の主婦により生み出された。さらにガイドブックの作成や口こみなどで、マスキングテープ人気が家庭の主婦に爆発的に広がることとなった。

 「マスキングテープを製造販売するカモ井加工紙の担当者は、マスキングテープを"かわいい"と表現する主婦を、当初は"正直気持ち悪い"と思い、その感覚が理解できなかったという。しかし、リードユーザーのニーズを調査し、それに見あった商品を提供することで、4年間で20億円市場に成長した」(西川氏)

 リードユーザーには、2つの特長がある。1つは既存の商品では満足できず、ターゲット市場のほかの消費者よりも先に改善が必要であるというニーズを感じていること。もう1つはニーズが解決されることにより、自分に利益がもたらされると信じて、革新に動機づけられることである。

 「これまでの方法である"スクリーニング"では、膨大な量から探さなければならないために、多大なコストがかかってしまう。そこで有効なのが"ピラミッティング"である。いわゆる"6次の隔たり"で、1人が6人を紹介する程度で世界中の人とのつながりを見いだすことができる」(西川氏)

共創型でイノベーションを

 クラウドソーシングによる共創型も有効な手法の1つだ。クラウドソーシングは、余剰時間を使ったイノベーションである。もっとも成功しているクラウドソーシングの1つが、アイデアを商品化して販売する米国企業のQuirkyだ。

 Quirkyでは、誰でもアイデアを提案することが可能。提案されたアイデアに対し、全員でコメントおよび投票を行い、1番人気のアイデアが次の商品デザインになる。商品化されたら全員でプランニングを行い、製造、販売までを手がける。

 LEGO Ideasも、誰でもアイデアを投稿することができるクラウドソーシングである。約1万人から集まったアイデアの中から優れたものをレゴが商品化して販売する。すでに「しんかい」「はやぶさ」「マインクラフト」「デロリアン」などが商品化されている。

 29大学33ゼミ415名125チームが参加する大学横断の商品企画プロジェクトであるSカレは、テーマをサイトで公開し、共創しつつ競争して、もっとも優れた1つのアイデアを商品化している。

多様性が優れた解決策を生み出す

 マサチューセッツ工科大学(MIT)では、スーパーのショッピングカートにエンジンを付けた乗り物を開発している。単にこれだけを見ると「なに遊んでいるの?」となるが、この乗り物が目指すのは、ショッピングカートのように重ねて連結することで、省スペースで駐車できるクルマの実現である。

 またインノセンティブという会社では、デュポンやP&Gが抱えていた専門分野の課題をその分野とは異なる参加者のアイデアで解決するクラウドソーシングを提供した。これにより化学の問題を電気技師が解決した。解決された問題の72.5%は、別の分野の専門家が既知のアイデアをベースにしている。

 西川氏は、「顧客経験を活用するためには、ユーザー企業家でも、リードユーザー法でも、クラウドソーシングでも、固定観念にしばられないこと、オモチャだと思わないことが重要だ。多様性が優れた解決策を生み出すのである。ぜひ顧客経験を活用した創造を目指してほしい」と期待を込めて講演を終えた。

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