すごい上司の心得。それは、何をするかではなく、何をしないのか:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
女性社員に嫌われる上司は、自分でも気づかないうちに職場で何をしてしまっているのか? を明らかにすることで、すごい上司の人物像に迫ってみる。
部下が逃げ出す上司ほどハラスメントが分からない。
ハラスメント(嫌がらせ、いじめ)という言葉は、セクシャル・ハラスメントとして使われ始めてから、世間で瞬く間に広まりました。そして、今ではパワー・ハラスメントやモラル・ハラスメントなど、たくさんの種類のハラスメントが社会問題として取り上げられるようになったのです。
また、ハラスメントの加害者と被害者の関係も、単純な図式ではなくなりました。これまでハラスメントは、男性と女性、上司と部下などの関係性の中で語られることが多かったのですが、今は違います。
マタニティ・ハラスメントなど同性間のハラスメントもあれば、OA機器の操作が苦手な上司に対して、部下が嫌がらせをすることなどもハラスメントになるのです。
そして、これから職場でますます増えるのは、同性社員間のハラスメントだと考えています。これは、日本の少子高齢化・労働力不足に対応するための国の政策ともからむ問題です。安倍晋三内閣は、「女性の活躍」を国家の成長戦略の柱として位置付けました。
女性の活躍には2つの意味があります。ひとつは、社会の働き手として活躍するということ、もうひとつは家庭で子供を産み育てる母親として活躍するということです。そうなると今後、職場にはますます多様なライフスタイルと働き方を選択する女性社員同士が、ともに働くことになるでしょう。
多様なライフスタイルには、そもそも結婚や出産を選択する、しないも当然含まれます。ですが、ことはそう単純ではありません。選択してご縁に恵まれる社員もいれば、希望してもご縁に恵まれない社員もいるのです。
出産を望んでご縁に恵まれた女性社員はもちろんのこと、望んでもなかなかご縁に恵まれない女性社員の負担や不安は、計り知れません。これは、不妊治療を経験したことのある女性に話をうかがって、初めて理解したことです。
子供を授かるというご縁に恵まれたとしても、その先には育児というイベントがあります。その際、働く女性は待機児童問題など、さまざまな問題に直面しますが、そのひとつに職場の無理解があります。働く女性が活躍するためには、男性パートナーの協力が必要不可欠ですが、それを阻むのが職場の無理解です。
この無理解には大きく2つの方向性があります。ひとつは、部下(男性)が、積極的に育児することに対する上司(男性)の無理解です。もうひとつは、部下(女性)同士の感情的な摩擦に対する上司(男性)の無理解です。
ひとつめについて、上司は自分が育児を妻に任せっきりにしていた(当時はそれが一般的だった)ため、仕事と育児を天秤にかけたり、仕事より育児を優先して残業や休日出勤を断る部下のことが理解できないのです。
もうひとつ、「女性の敵は女性」という意味を男性は理解できません。男性は、出産や育児というようなライフイベントでは特に、女性の気持ちや体験、境遇をまったく同じように理解することは難しいでしょう。
その際、部下が逃げ出す上司ほど、自分の知らないこと、分からないことにも自説を展開してしまうのです。しかも、訳知り顔で、ろくに部下の話も聞かないのでたちの悪いことになります。
反対に部下に信頼される上司は、知らないことを知らないと率直に言え、私情も自説も挟まず、まずは部下の話をよく聴こうとします。
教訓:部下に信頼されるすごい上司は、自分が知らないということを知っている、自説を押し付けない。
著者プロフィール:新井健一 経営コンサルタント・ビジネス書作家
経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。
1972年生まれ。早稲田大学 政治経済学部政治学科卒業後、大手重機械メーカー、アーサーアンダーセン/朝日監査法人(現 KPMG/あずさ監査法人)、同ビジネススクール責任者、医療・ITベンチャー企業役員を経て独立。大手企業向けの経営人事コンサルティングから起業支援までコンサルティング・セミナーを展開。テレビ東京・BSジャパン「人生が変わる人事の話」(毎週金曜日夜11:00)に人事の専門家としてレギュラー出演。
著書に「いらない課長、すごい課長」(日本経済新聞出版社)などがある。
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