データ資本主義がもたらす人間中心の社会〜思考のROI(投資対効果)最大化〜:視点(2/2 ページ)
「データは新しい石油(Data is the new oil)」といわれているが、企業にはさまざまなデータ、あるいはデータ化されていないアナログ情報が活用されずに眠っている。
天動説から地動説へ、コペルニクス的転回が求められる。そもそも、人間が容易に因果を説明可能な程度の相関なら、機械学習を通すまでもない。説明不可能な相関にこそ価値ある初期仮説のタネが潜んでいるはずだし、トライアルアンドエラーに値する。
今や、相関と因果の力関係は逆転した。演繹的解釈に拘泥せず、帰納解を初期仮説として素直に受け入れよう。地頭力は、未来起点で初期仮説を大胆に進化させることや、初期仮説を根こそぎ覆す破壊的事業モデルを構想することに発揮しよう。思考のRoI(投資対効果)を最大化しよう。それこそが人間による真の「価値創造」だ。
データ駆動型社会は人間中心社会
2018年6月、内閣官房日本経済再生本部が公表した「未来投資戦略2018〜『Society 5.0』『データ駆動型社会』〜」。ここで描かれる世界は、現実空間の膨大なアナログ情報(機器や設備の稼働状況、環境情報など)をセンシングしてデジタルデータ化、仮想空間上で分析することで現実空間にフィードバックする、というもの。サイバーフィジカルシステムやデジタルツインとも呼ばれる。(図A参照)
ここでのポイントは、「仮想空間モデルを現実空間に近づけるには、現実空間をできる限り広く捉え、企業や業界の壁を超えた膨大なデータ(石油)を収集(採掘)する必要がある」ということ。必然的に分析(精製)結果は説明不可能となる。
だが、社会は複雑系。それが現実。可能な限り最大の全体を収集・分析し、部分で試し、学習する。これがデータ駆動型社会の思考様式であり、行動様式だ。一見無機質とも思えるデータ駆動型社会。しかし、無機質とも思える先にこそ、人間の思考だけでは生み出せなかった新たな需要創出を伴う人間中心のスマート社会が存在するに違いない。
注:初期仮説構築作業の“ゼロ”化ローランド・ベルガー東京オフィスは、協業先の株式会社ギックス(東京都港区)とともに、機械学習アルゴリズムを活用し、企業内データの目利きや初期仮説群導出を支援している。
著者プロフィール
田村誠一(Seiichi Tamura)
外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。
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