逆風吹き荒れるコンビニをどう変えるか〜3兆円の巨大ビジネスの変革を担う澤田貴司社長の挑戦:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
踊り場に差し掛かっている巨大企業、巨大ビジネスを大きく変える。その改革は、さらなる再生を目指す日本企業にとって大いにヒントになるのではないか。
私はリヴァンプの創業直後に取材をしたことがあったが、ファミリーマートの社長として名前が挙がったときには正直、驚いた。2020年に伊藤忠の100%子会社になったファミリーマートだが、社長就任時、伊藤忠は筆頭株主だったからである。
その伊藤忠が、かつて伊藤忠を辞めた人物を指名したのだ。「出戻り」の抜てき、しかもこれほどまでの要職での起用は、日本企業ではそうそう例がないのでは、と思った。
実は澤田社長が伊藤忠を辞めた理由は、「どうしても小売業をやりたかったから」だったのだ。そこから20年後、伊藤忠にとっての最重要企業の一つ、ファミリーマートの社長を委ねられることになるのである。まるで、奇跡を描いたドラマのような話なのだ。
そしてファミリーマートでの第一歩がまた驚くべきものだった。社長就任前の夏、ファミリーマート一番町店で3週間にわたって店長研修を受け、売り場に直接、立っていたのである。
店舗のことを深く理解していない人間が、社長になるわけにはいかない。現場が分からなくて、どうやって仕事をするのか、と。
これには社員も驚くことになった。社長になる人物が、真っ先に売り場で研修を受けたのだ。しかも数時間、体験するのではない。3週間、他のスタッフと一緒に本格的な店長研修を受けていたのである。
商品の品出しや発注はもちろん、清掃も行い。レジにも立った。おむすびや弁当、サンドイッチ、お菓子を売り、看板商品の一つ「ファミチキ」をフライヤーで揚げ、宅配便の荷物を預かり、公共料金の支払に対応した。
キャッシュレス社会の到来で決算の方法は多様化しており、またポイント連携も複雑になってきている。さらに、支払いのとき、「この商品券を使いたい」といきなり差し出されることもあった。その瞬間瞬間で、パッパッパッと頭を切り替えなくてはいけない。
取材で、こんな言葉を聞いた。
「たくさんの会社の経営や再生に携わってきて、分かったことがあるんです。それは、おかしくなった会社は、リーダーが現場を理解していないということです」
社長就任後、加盟店訪問件数は2年半で約700店舗にのぼった。交流は訪問だけにとどまらない。LINEで加盟店と直接つながった。これには、店舗の指導を担うスーパーバイザーから、こんな声が飛んだ。トップとつながるのは、リスクがあります。
しかし、これでは済まなかった。後に、全店レベルのアンケートを実施するのである。まさにパンドラの箱を開けるような作業に懸念の声も上がった。しかし、澤田社長は涼しい顔だった。今や毎回4000〜5000件程度は回答が集まる。こうした声を受けて、改革は着々と進んでいる。
「何十社もの経営に携わって、失敗もしてきました。社長でござい、なんて分かったようなふりをして指示を出したって、誰も動かないですよ。そんなことより、現場を理解して、吐くくらい仕事をする。失敗してからは、ずっとそうしてきました。それがリーダーの仕事です」
ファミリーマートの改革は、まだまだ途上。コロナという逆風も加わった中、どう変わっていくのか。ますます改革の難度は高まっている。日本マクドナルド再生の立役者の一人、足立光氏のCMO(チーフマーケティングオフィサー)就任も発表された。澤田社長のアグレッシブな挑戦は今も続いている。
著者プロフィール:上阪徹
1966年兵庫県生まれ。リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスに。著書に『成城石井 世界の果てまで買い付けに』『サイバーエージェント 突き抜けたリーダーが育つしくみ』『JALの心づかい』『社長のまわりの仕事術』『10倍速く書ける 超スピード文章術』など多数。インタビュー集に『外資系トップの思考力』『プロ論。』シリーズなど。他の著者の本を取材して書き上げるブックライター作品も80冊以上に。
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