DXの実現に重要なのは、ビジョンを描き、経営戦略を創り、競争ではなく共創すること:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)
現在、デジタル技術を活用した技術革新により、イノベーションを起こす力を持った経営トップが求められている。そのためには、技術力と経営ビジョンに基づいてDXを実践できる人材の育成が不可欠になる。
「日本企業の中で、ビジョンを明確に示し、経営が成功しているグローバル企業にトヨタ自動車がある。豊田章男社長は、2017年10月に“仲間とともに、情熱をもって、未来を創造する”と発信し、いまやっていることを持続的に成長させることと、未来への挑戦という2つの取り組みの両方が大切なことを発表している」(五十嵐氏)。
これからの自動車業界は、「ただ優れたクルマ、優れた技術を開発すればよい」「これまで通りの販売・サービスを続けていればいい」という時代ではない。トヨタ自動車では、AI、自動運転、ロボティクス、コネクティッドなどの新しいデジタル技術を活用し、「未来のモビリティ社会」という誰も見たことのない世界を目指していることは周知の通りだ。
企業の経営戦略を見ればDXの成否が分かる
DXを推進するためには思想も必要になる。思想とは、企業のビジョンや経営戦略に現れてくる。企業のビジョンや経営戦略を見れば、その会社がDXに成功するかどうかが分かる。それでは、どのように経営戦略を作ればよいのか。
五十嵐氏は、「これまでの経営戦略は、将来こうなるであろうという、現在の延長線上で未来を捉え、競合に対する競争戦略を軸に積上げ型で 数値達成を目指す計画だった。これからの経営戦略は、技術革新、変化する社会環境のもとに、企業のかたちを考え、ビジョンを作ることが重要。ビジョンを実現するため、従来の企業の枠を超えて取り組む戦略が必要になる」と話す。
コアコンピタンスや、強みの源泉となる経営資源を理解しておくことは同じだが、考えるべきは競合他社ではない。技術革新がどのように進化していくのか、デジタル化により何ができるのかなど、そしてお客さまの価値や体験をいかに高めるかが重要になる。最大の課題は、SDGsにいかに取り組むかである。こうして策定された経営戦略は、今後10年間は利用できるに違いない。ここで示したビジョンと経営戦略のつくり方は、部門の戦略、研究所の戦略などにも置き換え考えていただいてよい。
「味の素では、2009年に書籍にも登場する“はぐれ者10人衆”というチームで、2011年〜2013年中期経営計画の味の素グループビジョンとして策定している。2015年に国連がSDGsを採択する以前に、地球の持続性、食資源、健康な生活の実現が、21世紀の人類社会が解決すべき課題と捉え、企業活動によりその解決を図ることを目指すとした。当時このビジョンは評価され、いまでも一貫してビジョンの基盤をなしている」(五十嵐氏)
このビジョンは、人と地球の未来の進歩に貢献する、コアな技術領域をもつ、多様な人材を生かす、世界レベルでの利益を確保する、効率性を高めるという経営戦略に落とし込まれ、さらに経営戦略を、より具体的な戦術に落とし込んでいる。詳しくは「2011-2013 中期経営計画」で紹介されている。
イノベーションを実現するためには、取り組み方を知ること。現場に任せきりでなく、リーダーが要素をいかに組み合わせるかが重要になる。DXとは、デジタル化とイノベーションの組み合わせであり、効率化、コスト削減ではない。そのためには、ビジョンを描き、経営戦略を創り、競争ではなく共創することが重要になる。
五十嵐氏は、「技術者は、今、学び、変わることを求められる。一人一人がビジョンを考え、事業を作りだす視点で、デジタルビジネスをベースに、自前主義をやめ、小さなチャレンジから、迅速に行動を起こすことが重要になる。これにより、仕事が楽しい、そして豊かで、開かれ、いきいきとした未来を作ることができる」と話し、講演を締めくくった。
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