エグゼクティブは『ストーリーでわかる「起業の科学」』をこう読む:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
これまでのやり方で成功してきた人は、今までのやり方の最適化、改善で成果を上げて、今の地位を獲得したが、新規事業は既存事業からのバイアスに影響されずにゼロベースで考えていく必要ある。
評価する側は大きな影響力があるので、当然一プレイヤーである山田さんが影響を受けてしまいます。山田さんがいかに優秀でも、新規事業をマスターしていても、評価する側が顧客軸の深掘りすらできないならば、うまくいくものもいきません。
田所メンタリングを追体験
山田さんのような担当者を左右するのは、メンタリングをする側の力量によります。私(田所雅之)はこの本の中でメンタリングをしていますが、そこはエグゼクティブの皆さんに追体験していただきたいところです。エグゼクティブにこそ、本書を読み、自分だったらどのようにアドバイスするのかを考えたり、または「自分は普段このようにアドバイスしていないので、田所のアドバイスやメンタリングの方法にも一理あるな」と受け止めたりしてみてください。
日本では、エグゼクティブの人たちに、「メンタリングをする」という意識が、まだほとんどないのではないでしょうか。
メンタリングをするには、担当者に比べて10倍以上新規事業のことがわかっている必要があります。エグゼクティブは、担当者が何がわかっていないかを感知して、そこに対する視座を提供しなければならないのです。一緒に「どうしたらいいんだろうね?」と悩んでいては駄目です。そのような意味で、エグゼクティブは、本業はもちろんのこと、「リソースフル」であることが重要です。
「知の探索」
今後のエグゼクティブにおいて大事なスキルとは、まさに「知の探索」、つまり新たな事業を探索していくことです。業界で濃淡はありますが、これは非常に大事なスキルになってくるでしょう。
単に与えられたオペレーションをよくするというのは、RPAとAIが得意なことです。ただイノベーションを起こすとか、フレームそのものを再定義するとかいうことは、私はこの先も人間しかできないと思っています。さらにそれを人に伝えて巻き込む、いわゆるセンスメイキング、腹落ちさせるということは、AIにはできません。
腹落ちさせるというのは、人間に最後に残された聖域だと思います。ですのでエグゼクティブも、部下と一緒に探索していく力と、腹落ちさせる力が非常に重要になってくるのです。
メンタリングとは何をするのか? それは、一緒に知の探索をすることです。『ストーリーでわかる「起業の科学」』はメンタリングのノウハウの本ではありませんが、ぜひエグゼクティブの皆さんには、私のメンタリングを追体験して学んでいただければと思います。
実際、エグゼクティブは答えを与えるのではなく、いかに問いを立てるかが大事だと考えています。本書において、私は山田さんに「答え」を与えていません。答えを与えてしまったら、そこに再現性がないからです。
起業家にとって大事なことは、思考停止にならないことではないでしょうか。考えさせるためによい問いを投げるのが、よいマネージャーであり、よいコーチであり、よいエグゼクティブといえるでしょう。
著者プロフィール:田所雅之
株式会社ユニコーンファームCEO
関西学院大学大学経営戦略大学院 客員教授
これまで日本で4社、シリコンバレーで1社起業をした連続起業家
2017年発売以降115週連続でAmazon経営書売上1位になった「起業の科学 スタートアップサイエンス」及び「御社の新規事業はなぜ失敗するのか? 企業発イノベーションの科学」 「起業大全」の著者。2014年から2017年までシリコンバレーのVCのパートナーとしてグローバルの投資を行う。現在は、スタートアップ経営や大企業のイノベーションを支援するUnicorn FarmのCEOを務める。
年間の講演回数は160回(2019年実績)、新規事業アドバイス/メンタリングは600回(2019年実績)。
内閣府タスクフォース(価値デザイン社会審議会)メンバー、経産省主催STS(シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援)の協議会メンバー、経産省主催TCP(ベンチャー支援プログラム)のメンター/審査員などを歴任
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