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協調して進む欧州のサーキュラーエコノミー視点

循環型社会の実現に向け、資源や物質のトレースが行われ、CO2排出量を把握できる状態を作ることが求められている。

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Roland Berger

A、循環型社会の実現に向けて

 循環型社会・サーキュラーエコノミー・脱炭素・カーボンニュートラルという言葉を耳にする機会が増えている。言うまでもなく、地球上で有限なあらゆる資源を繰り返し利用し、同時にCO2排出量を減らし地球環境を維持していくことを意味している。しかし、どの製品・どの部品にどのような資源が含有されているのか分からないとリサイクルできない。どこでどれだけのCO2が排出されているか分からないと、どこで減らすべきか判断できない。

 よって、循環型社会の実現に向け、サプライチェーンの上流(原材料・素材)から下流(最終製品)まで、さらには廃棄された最終製品が回収され原材料・素材として戻ってくるところまで、資源や物質のトレースが行われ、CO2排出量を把握できる状態を作ることが求められている。

B、欧州の取組み(自動車業界を例に)

 ここでは、循環型社会実現に向け協調して動き始めた、欧州の自動車業界の取組みをご紹介する。

 循環型社会実現には、自動車メーカーやTier 1のみならず、Tier Nまでのサプライチェーン全体をカバーし情報共有することが必要である。というのも、資源をトレースするには原材料・素材までさかのぼることが必要であり、またCO2排出量の半分はTier 2以下であるとされているためである。

 このように中小企業も含めたサプライチェーン全体をカバーするためには、多くの課題がある。例えば、ことCO2について述べると、排出量の算出方法の統一基準が設定されていないこと、各プレイヤーが保有している情報の形式がばらばらであり標準化されていないことが課題となる。また、その情報がデジタル化されていない場合、情報を入力する手間(=コスト)がかかるという課題がある。さらに、各プレイヤーが情報を出すことへのインセンティブ付与も必要であり、情報を出すためのコストと享受するメリットを平等に分配することも求められている。

 このような課題をクリアしサプライチェーン全体で情報共有を実現する取組みは、3つのレイヤーで構成されると言える。

 1. ルール作り:取得・共有すべき情報の項目や粒度、情報のフォーマットといったルール設定

 2. ルールにのっとった情報共有:サプライチェーンを構成する全てのプレイヤーが、ルールに基づき実際に情報を共有

 3. ツール提供:個々のプレイヤーの秘匿情報を守りながら、必要な情報を共有し集約するためツールの提供

 この中でも、ルール作りが重要であると欧州では考えられており、サプライチェーン全体におけるルールを作るためにCatena-Xというアライアンスが作られている。このCatena-Xにはサプライチェーンを構成する自動車メーカー・サプライヤー・化学企業、情報共有プラットフォームを構築できるソフトウェア企業、そして技術支援や法的な観点でアドバイスをする研究機関や政府等が参加しており、自動車業界全体が一丸となって取組もうとしている。

 ルールは実効性を担保することが重要。そのためには、精緻さを求めすぎないことがポイントのひとつとなる。情報を取得・共有するのは、新興国プレイヤーや中小企業などあらゆるプレイヤーが対象であり、情報に関するインフラが十分でないプレイヤーも対応可能なレベルとすべきである。CO2排出量の算出や資源のトレースの精緻さを求めるが余り、その精緻さについていけないプレイヤーが発生すると、サプライチェーン全体をカバーすることが出来なくなる。まず、誰もが参加可能なレベル感のルールで始めることである。

 このように多くのプレイヤーに受け入れられるルールが作られることで、欧州共通のルールとなり、ルールを進化させながら世界のデファクトとなる。このようなシナリオを描いていると考えるのが自然ではなかろうか。(図A参照)


グローバルサプライチェーンを包含する共通のルール作り

C、日本企業が考えるべきこと

「はじめからグローバルが前提」:

 サプライチェーンはグローバルでつながっている。「まず日本、次にグローバル」ではない。日本国内のみで考え、ガラパゴスになることは避けたい。

「本質論とグローバルルールに基づく議論の使い分け」:

 CO2排出量の算出や資源のトレースの正確性を意味あるレベルで突き詰めることは本質的には正しい。一方、グローバル市場での評価はルールに基づき行われる。投資家や消費者から評価を得る、認証を得るためには、グローバルルールを念頭に置いた行動が必要になる。

「ルール作りへの積極参加」:

 ルール作りはサーキュラーエコノミー実現のためであるが、同時に産業政策の面もある。つまり自国・自社に有利なルール作りをするということである。よって、サーキュラーエコノミー実現と競争力強化を両立するというしたたかさを持ちながら、ルール作りにおいて積極的に提案を行っていくべきである。

著者プロフィール

山本 和一(Waichi Yamamot)

ローランド・ベルガー プリンシパル

慶應義塾大学理工学研究科修士課程修了後、ローランド・ベルガーに参画。自動車、航空などのモビリティー分野、及び製造業を中心に、幅広クライアントにおいて、ビジョン策定、事業戦略、新規事業戦略、戦略の実行支援など、多様なプロジェクト経験を有する。また、官公庁への支援も豊富であり、多様のステークホルダーを俯瞰した日本の産業競争力の強化へも取組む。


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