EV化が生み出すモビリティの多様性(2/2 ページ)
EV化によって、未来のモビリティの可能性が拡張され、これまでの自動車製造における制限が取り払われ、自動車の多様性が生み出されるだろう。
また、EVを単なる移動手段と捉えず、多様な価値の1つと捉える動きもある。例えば、中国のNIOはライフスタイルブランドとして位置付け、EVの提供のみにとどまらず、セレクトショップやコワーキングスペースなどを提供している。また、車内でエンターテインメントを堪能できるSonyの「Vision S」も、単なる移動手段を超えた価値提供を目指しているといえる。
(3)プレイヤーの観点:自動車の企画・開発プレイヤーの多様性
EV化をきっかけに、多様なプレイヤーが自動車・モビリティ産業への参入を始めている。従来サプライヤーとして自動車メーカーに部品やシステムを供給していたプレイヤーが、EVないしはEVプラットフォームを供給する動き。自動車のノウハウを持たなかったスタートアップ企業が参入し、ゼロベースで自動車作りを行うと共に、新しい提供手法に取り組む動き。異業種出自のプレイヤーが参入し、自動車に移動以外の価値を加え、同時にサプライヤーと組むことで不足ノウハウを補完するといった動き。
これらの動きは自動車業界に構造変化をもたらし、既存の自動車メーカー・サプライヤーにとって、競い合う相手や協業する相手が変わるということを意味している。
具体的には、前述のTriggoやCity Transformerなどはスタートアップとして自動車産業へ参入してきたといえるだろう。EV化が進んだからこそ新しいプレイヤーが新しいモビリティを世に提案することができているのである。
また、Vision SのSONYも言うまでもなく自動車業界のプレイヤーではない。電機メーカーでありエンターテインメントを提供するプレイヤーといえるだろう。しかし、自動車としてのノウハウ部分には大手サプライヤーのマグナとの協業が重要であった。異業種であるSONYからすればマグナと組むことで自動車という新しい領域への参入を果たし、サプライヤーであるマグナとしては従来の自動車メーカーと異なる新しいビジネス機会を得たことになる。
この変化の波を脅威と捉えるか、チャンスと捉えるか
元はと言えば脱炭素の観点で生み出されたEVであったが、その変化がもたらすものは、環境への配慮だけではなく、モビリティそのものや、エンドユーザーの生活・移動シーンにおける移動方法の変化をもたらし、自動車業界におけるビジネス構造の変化を引き起こす。つまり、EV化は単なるエンジン車の置き換えではないことがいえるだろう。
その時、自動車メーカーやサプライヤーなど、自動車に携わるビジネスを行う企業にとって、このような変化は脅威と捉えられる。しかし見方を変えると、新しい市場が生まれるとうことは、新しいビジネスを行う機会であるといえる。エンドユーザーのどのような移動シーンに対して、どのようなモビリティを提供するのか。自動車メーカーからすると新しい移動を提案する機会になるだろう。サプライヤーからすると、新しいモビリティの企画に携わる可能性や、新たな協業先を発掘する機会になるだろう。
われわれローランド・ベルガーとしては、100年に一度といわれる変化のなか、時代に合ったモビリティビジネスを作り出すことに貢献していきたい。
著者プロフィール
山本 和一(Waichi Yamamot)
ローランド・ベルガー プリンシパル
慶應義塾大学理工学研究科修士課程修了後、ローランド・ベルガーに参画。自動車、航空などのモビリティー分野、及び製造業を中心に、幅広クライアントにおいて、ビジョン策定、事業戦略、新規事業戦略、戦略の実行支援など、多様なプロジェクト経験を有する。また、官公庁への支援も豊富であり、多様のステークホルダーを俯瞰した日本の産業競争力の強化へも取組む。
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