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平均年収で1億2000万もの差……世界の一流研究機関が示す「スペシャリスト思考が危うい」理由ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

ジェネラリストであるべきか、スペシャリストであるべきか。終身雇用が一般的だとされた時代から、雇用流動化が進み始めた昨今において、世界の一流研究機関は「多様性のある働き方」についてどう見ているのだろうか。

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 トップレベルのアスリートは、果たして幼少期から特定のスポーツに取り組んできたのでしょうか? それとも、子どものころはさまざまなスポーツを試し、そのうえで1つの種目に絞り込んだのでしょうか?

 ご存じのとお通り、幼いころから特定の種目にコミットし続けたアスリートは少なくありません。

 2歳からゴルフを始め、8歳でジュニア世界選手権を制覇したタイガー・ウッズ。3歳9カ月から卓球のラケットを握り続けた福原愛。4歳からフィギュアスケート一本で技術を磨いた羽生結弦。こうしたトッププレーヤーの存在は、特定の種目で試行回数を重ねることの重要性を表しているように見えます。

 ところが、分析の結果は違いました。実際には、世界レベルのアスリートほど、10代のうちに複数のスポーツに時間を使い、1つの種目に狙いを定める時期が遅かったのです。

 逆に、子どものころから特定の種目に絞った選手は、ジュニアレベルでは成功を収めやすかったものの、成人後にはトップになれない傾向がありました。

 幼いころからの英才教育は、どうやら長期的な成功に結び付きにくいようです。

チャレンジのバリエーションが成功のカギ

 トップアスリートほど複数の種目を経験していた理由は、大きく3つあります。

1、複数の種目を体験することで、メンタルが燃え尽きにくくなる

2、いろいろな種目を試せるおかげで、自分の才能を見極めやすくなる

3、多彩な経験を積むことで、複数のスキルが身につく

 1つのスポーツに打ち込めば、練習時間を長く取れるものの、そのぶんだけ気分の切り替えは難しくなります。と同時に、自分の才能がほかでも通じるのかどうかも検証できませんし、さらにはライバルが新たな戦術や攻撃法を編み出してきた際に、うまく対応できなくなってしまうのです。

 一方で、複数の種目を経験しておけば、自分の才能に適した競技を選びやすくなるうえ、いろいろなスキルが身につくおかげで予期せぬ変化への対応力も上がります。さらに練習のバリエーションが増えたことによってバーンアウト(燃え尽き症候群)も防ぐことができます。

 競技によって違いはあるものの、子ども時代にさまざまなスポーツを経験したほうがよいのは間違いないでしょう。

 幼少期から野球とバスケットボールに取り組んだマイケル・ジョーダンや、子ども時代に柔道を学んだジネディーヌ・ジダン。野球だけでなくバドミントンや水泳も習っていた大谷翔平選手などの名前がすぐに浮かびます。

 タイガー・ウッズのようなタイプは少数派で、実際には、特定の種目に絞って試行回数を増やすのは得策ではないようです。

 詳しくは本書『運の方程式』に譲りますが、昨日は通じたスキルや知識が明日には陳腐化する現代において、多彩な経験が役に立つのは当然の話。

 私たちは、ともすれば1つのことに打ち込む人を持ち上げがちですが、試行回数の作用を十分に生かすには、同じことを繰り返すのではなく、チャレンジのバリエーションも増やさねばならないのです。

著者プロフィール:鈴木祐(すずき ゆう)

サイエンスライター。1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ね、多数の執筆を手掛ける。自身のブログ「パレオな男」では心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。近年はヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方を伝える講演なども行う。著書に『YOUR TIME ユア・タイム』(河出書房新社)、『進化論マーケティング』(すばる舎)、『最高の体調』『科学的な適職』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)、『不老長寿メソッド』(かんき出版)他ベストセラー多数。


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