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生成AIは人間の仕事を奪わない。3つの懸念点を踏まえつつ、生成AIの積極的な活用を――日本マイクロソフト 西脇資哲氏ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

今、あらゆる分野でブームを巻き起こしている「生成AI」は、大きな可能性を秘める反面、さまざまなリスクもはらんでいる。この革新的な技術にどのように向き合うべきか。

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どう向き合う? 生成AIを取り巻く3つの懸念点

 マイクロソフトもこの革新をさらに推進すべく、GPTを用いた生成AI「Microsoft Copilot」を提供している。それもMicrosoft 365と統合することで、資料作成中にシームレスに生成AIにプロンプトを投げてテキストや画像を生成し、体裁を整えるといった作業まで可能だ。「WordやExcel、PowerPointやOutlook、Teamsの中からそのまま生成AIが使えるという大きなメリットがあります」(西脇氏)

 ただ、生成AIを企業で活用する際には、さまざまなリスク、西脇氏いうところの「懸念点」もある。具体的には「セキュリティ」、もっともらしい偽の情報を生成してしまう「ハルシネーション」、そして「著作権の侵害」の3点だ。

 まずセキュリティについては、生成AIの登場当初から「企業内部にある非公開情報や個人情報をそのまま生成AIに投げると流出の恐れがあるのではないか」といった懸念が指摘されていた。

 西脇氏はそうした懸念への回答として、例えばCopilotでは、Entra IDを使用してサインインしている企業の場合、自動的に投げられるあらゆるデータ、出力されたあらゆるデータが保護される仕組みになっていると説明した。さらに「データはお客様のもの」という原則に基づいて、プロンプトに入力されたデータをAIの学習に再利用することはなく、保護されているとした。

 その上で、閉じられた環境で企業それぞれに「専用のChatGPT」を作って自社のデータを扱わせつつ、運用のルール作りを進めることで安全に活用する方法もあると提案した。このやり方ならば、例えば「会社では副業は認められていますか。申請方法を教えてください」というプロンプトに対して、ごく一般的な、悪く言えば当たり前すぎて役に立たない回答を返すのではなく、自社の就業規則を参照し、具体的な申請方法も含めた回答を得ることができる。

 西脇氏によると、すでにパナソニックや村田製作所といった製造業にはじまり、鹿島建設のようなゼネコン、大和証券グループのような金融業に至るまで、幅広い業種の2千数百社を超える企業が、クローズドな環境で自社の生成AIを構築し、活用を始めているという。

 2つ目の懸念点は、AIが平気で嘘をついてしまうハルシネーションだ。まず前提として、AIは意外な結果や間違いを起こす可能性を持っており、ハルシネーションは起きるものだと思ってほしい。

 その上で、人間の側でハルシネーションを減らす、あるいは確認する努力が必要だ。よりハルシネーションの少ない「GPT-4」など最新のモデルを採用することも一つの手だが、別途検索ツールなどで確認してファクトチェックを行うことも重要だ。

 これは必ずしもAIに限った話ではなく、仕事を依頼した時でも、その成果が本当に正しいかどうか確認する必要があり、AIであろうが人間であろうが変わりはない。

 3つ目の懸念点は著作権だ。もともと著作権とは「思想、または感情を、創作的に表現したもの」であり、長年、人間の行為によるものと位置付けられてきた。これに対し、AIが作ったものは著作物に当たるのだろうか。「以前から何度も議論がなされており、いまだに明確な結論は出ていませんが、今のところAIが作ったものは著作物ではないという考え方が定着しています」と西脇氏は説明した。

 生成AIと著作権の関係では、「AIは、公開されている情報を勝手に学習していいのか」という学習と、「AIが生成したものに著作権はあるのか」という生成物という2つの論点がある。そして、あくまで現時点での解釈だが、前者については「公開されている著作物は、学習に自由に利用可能」とする「享受」という考え方が主流だ。一方で生成物に関しては前述の通り、AIが生成したものは著作物に該当しないという見解がなされている。

 従って、「これが著作物である」と主張するには、AIを使用して生成されたものに、利用者が創作的に表現するための手を入れることが重要だと同氏は話す。ただ、AIを利用した場合であっても、あるいは人間が最初から最後まで創作した場合であっても、「類似性」と「依拠性」がある場合には著作権侵害に問われる可能性がある点には注意が必要だという。

 マイクロソフトは生成AIと著作権の観点から、Copilotにさまざまなガードレールを組み込んで、類似性の高いコンテンツを生成しないようにすると同時に、法律面でも新たな取り組みを行っている。2023年9月に発表した「Copilot Copyright Commitment」において、顧客がCopilotを著作権に関するクレームを心配することなく使用できることを宣言し、万一、著作権上の異議を申し立てられた場合、マイクロソフトが法的にリスクを負うことを明言している。

ガイドラインを作成し、安全に、積極的に生成AIの活用を

 生成AIがもたらす大きな可能性と懸念点、それらに対する解決策を説明した上で、西脇氏は改めて「こういったリスクがあることを知りながら、ぜひ活用してください」と呼びかけた。

 その際重要なポイントが、AI利用に関する「ガイドライン」の作成だ。

 非常に参考になる例が、東京都庁が作成したガイドラインだ。このガイドラインでは、「個人情報、機密性の高い情報は入力しない」「著作権保護の観点から十分に配慮する」「回答の根拠や裏付けを確認する」「成果物に対し、生成AIで作られたものであることを明記する」という四つの守るべきルールが明確に示されている。「本当に丁寧に作られているため、ぜひ一度ダウンロードし、一読してみてください」(西脇氏)

 こうやって自社のルールやガイドラインを作ることで、生成AIがもたらす力を安全に活用できるだろう。

 もちろん、生成AIをめぐる懸念点は他にもある。より真実味のあるフェイクニュース、フェイク情報が容易に生成できるようになったり、生成AIのトレーニングのためにこれまでとは比較にならないほどの電力が消費され、環境負荷が高まるといった課題だ。そうした課題を認識した上で、例えば「これは本当かどうか分からないと思った情報は無闇矢鱈に広めない」という平常心を持つよう心がけたり、「果たしてこの作業は生成AIを使う必要があるだろうか」と冷静に問い直したり、という姿勢も持ちつつ、生成AIに向き合ってほしいとした。

 最後に西脇氏は、生成AIの登場時から盛んに言われてきた、「生成AIが人間の仕事を奪う」という説について、「そんなことはありません」と断言した。

 「AIは勝手に仕事を奪っていきません。AIを使いこなしている人に仕事が奪われるだけです。ゆっくりしている人から仕事を奪っていくのは、AIを使いこなして時短をし、いろんなことをどんどん早く、正確に行って仕事をたくさん回す、AIを使いこなしている人です」

 そして、生成AIがもたらした時短によって生まれた時間で、もっと現場やお客様のところに行ったり、あるいは休んでワークライフバランスを充実させたりと、うまく時間を使ってほしいとした。

 「そろばんから電卓、手書きからパソコンになって、インターネットを使うようになったら、もう元には戻りません。生成AIも、使ったら元には戻れないんです。今日紹介した懸念点や影響を理解した上で、効率的に、上手に活用してください」(西脇氏)

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