第49回:なぜ、マネジメントは経営陣と施策を握れないのか──提案を受け入れられるマネジャー、評価されるマネジャー、経営陣に抜てきされるマネジャーはここが違う:マネジメント力を科学する(2/2 ページ)
提案が通るマネジャーとそうでない者の間に能力の差があるとは限らない。しかし前者は実務の延長で「どうやるか」を意見するにとどまり、後者は経営の側に立って「何をやるか」を実行責任とともに提案しているのである。
課題の捉え方が提案の質を分ける-「意見」と「提案」を分けるもの-
では、経営陣と施策を握ることができるマネジャーは、何が違うのでしょうか。まず第一に挙げられるのは、「課題の捉え方」です。
多くのマネジャーは、自部門や担当領域における課題から議論を始めます。しかし経営は、常に会社全体の優先順位の中で意思決定を行っています。したがって、部分最適にとどまる提案は、どれほど正しくても優先順位の外に置かれることになります。
重要なのは、顧客と企業の双方にとって最大価値がどこに存在するのかを捉えているかどうかです。顧客に価値があっても企業に利益が出ない施策は持続しませんし、企業に利益があっても顧客に価値がなければ選ばれません。この両者が重なる領域に踏み込んでいるかどうかが、提案の質を決定的に左右します。
第二に問われるのは、「責任の引き受け方」です。
経営陣との距離があるマネジャーは、しばしば「意見」を述べるにとどまります。一方で評価されるマネジャーは、「提案」を持ち込みます。両者の違いは、責任を伴うかどうかにあります。
意見はあくまで見解の提示にすぎませんが、提案は実行責任を前提とします。「こうすべきだと思います」と言うのか、「この方針で進めるべきです。その実行責任を引き受けます」と言い切るのか。この差が、評論する人と任せられる人を明確に分けます。
実務の延長にとどまる限界
さらに大きな違いとして、「立ち位置」の問題があります。
経営陣に入り込めないマネジメント人材の多くは、「実務の人」のままにとどまっています。与えられた業務を着実にこなし、改善を積み重ねることは重要な価値ですが、それだけでは経営の領域には到達しません。
経営とは「何をやるか」を決める仕事であり、実務とは「どうやるか」を考える仕事です。この違いを越えられない限り、どれほど優秀であっても「実務の延長線上の人材」として扱われ続けることになります。
経営が見ている「現実」と「時間軸」
また、経営の意思決定において決定的に重要なのが、「現実」と「時間軸」です。
現場からの提案はしばしば「正しいが実行できない」状態に陥ります。理想としては魅力的であっても、リソースや制約を踏まえると現実的ではないというケースです。経営陣は、こうした点を極めてシビアに見ています。
その施策は本当に今実行可能なのか、どのリソースで回すのか、いつ回収できるのか、他の優先課題より優先すべき理由は何か。こうした問いに答えられない提案は、どれほど魅力的でも採用されることはありません。
さらに言えば、施策は「動かし方」まで設計されて初めて意味を持ちます。
課題が正しく認識され、方向性も妥当であったとしても、それだけでは何も起こりません。誰を巻き込むのか、どの順番で意思決定を取るのか、どの組織をどう動かすのか。こうした実行プロセスまでを含めて設計されているかどうかが、提案の成否を分けます。
経営陣と施策を握ることができる人材は、この「実行の設計」までを提案に織り込んでいます。
「経営の側に立つ」ということ
以上の違いを総括すると、経営陣と施策を握れるマネジャーは、「経営の側に立っている」と言えます。
実務の側から経営を見ているのか、それとも経営の側に立って実務を見ているのか。この違いが、すべてを分けています。前者は課題を説明する人であり、後者は意思決定を動かす人です。そして経営陣が求めているのは、後者にほかなりません。
抜てきされるマネジャーは何を問われているのか
経営陣との対話の場は、単なる相談の場ではありません。それは「この人に任せられるかどうか」を見極める場です。
その際に問われているのは極めてシンプルであり、この人は経営を担えるのか、という一点に尽きます。その答えは、特別な実績や肩書きによって示されるものではなく、日々の言葉や振る舞いの中にすでに表れています。
提案しているのか、評論しているのか。責任を引き受けているのか、それとも距離を取っているのか。この差が、評価されるマネジャーと抜てきされるマネジャーの分岐点となります。
すでに始まっている分岐
マネジメントという仕事は、実務の延長ではありません。また、経営に近づくための単なる準備段階でもありません。その時点ですでに、「どの立ち位置で仕事をしているか」が問われています。
経営の外側から意見を述べるのか、それとも経営の内側から提案を行うのか。その選択は、日々の仕事の中で積み重なり、やがて決定的な差となって現れていくのです。
著者プロフィール:井上和幸
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
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