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第47回:孫正義氏から怒られて気がついた、経営幹部が果たすべき本当の役割とはマネジメント力を科学する

役員と部長の間にゼロイチの区分けが常にあるわけではないが、部長は現ビジネスをどうするかを、役員はどういう世界を実現するのかを考えなくてはならない。

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 エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。AI時代に難易度を増していると言われる"営業力"強化をテーマに、東京工業大学の大学院の特任教授を務め、日本で初めてのMBAでの営業カリキュラムを受け持つ北澤孝太郎氏をゲストに迎え、当連載筆者の経営者JP代表・井上との対談の内容からお届けする、第5回です。(2024年5月14日(火)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:これからの会社の成長の鍵を握る![決定版]営業トップはこう戦え!」)

携帯事業参入で、孫さんは「何を見ていた」のか?

 北澤さんから、非常に示唆深い実体験を聞きました。

 ソフトバンク時代、北澤さんは役員として携帯電話ビジネスに関わり、音声事業本部長として携帯事業の事業責任を担っていました。予算規模は約1800億円、当時の部下は1000人以上という大所帯でした。

 現場からは、「昔のJ-PHONE、ソフトバンクはつながりにくい。このままでは戦えないので、なんとかしてほしい」というクレームが散々届いたといいます。そこには明確な背景があり、北澤さんの前任にあたる外国人役員が2年間投資をせず、そのまま本国で昇進したという事情があったとのことです。結果としてネットワーク投資が滞り、つながりにくさが深刻化していました。

 北澤さんは当時、いわゆる“大部長”としての経験もあり、電力会社の要職の人とのネットワークも豊富でした。そこで「アンテナをどう立てるか」という打ち手をまとめ、孫さんのもとへ持っていったところ、強く叱責されたといいます。

 孫さんが指摘したのは、「今、つながらないと言っているのは誰なのかをよく考えろ」という問い返しです。当時は携帯電話がまだ十分に普及していない時代であり、孫さんは「学生や主婦も含め、1人1台が当たり前の世界をつくるのだ」という未来を見ていました。

 料金プランの話も象徴的です。当時の基本料金が3980円だったところ、ソフトバンクは980円、さらにソフトバンク同士は通話無料というプランを構想していました。

孫さんは「これをやる」と決めていたわけです。

 北澤さんには、「そのプランを法人に売れるように考えるのがお前の仕事だ。使ってもいないような人たちや、ゴルフ場で“使えない”と言っている人たちに売れることを考えるのがお前の仕事ではない」と言い切ったといいます。北澤さんは「穴があったら入りたいとはこういうことだ」と振り返っていました。

営業部長と役員の役割の違い

 この経験から北澤さんは、役員が何をすべきかを痛感したといいます。

 役員は、事業プランをしっかり考えることです。対して北澤さんが当時考えていたのは、「携帯電話をいかに売れるようにするか」ということで、これは営業部長の仕事に近いものがあります。恥ずかしさを伴いつつも、「なるほど、役員はこういうことを考えるのだ」と腑に落ち、営業部長と役員ではやるべきことが明確に違うと理解できたそうです。

 ちなみに、この話でいうと、その当時の「部長」の役割は何でしょうか。

 北澤さんの見解は、役員の仕事を「事業構想や世界観、つまり“携帯電話とは何か”“どういう世界をつくり、そのために何をすべきか”を考えること」と整理したうえで、当時の部長は「つながらない」という課題に対して、自分の人脈や課題解決能力を使い、その問いに真正面から答えていく役割だったのではないか、と話していました。

 当時を振り返り、もし自分の下の部長たちが同じように外部の要職者と連携し、「こう計画を立てて、これを役員と一緒に進めてください」という動きができていたならよかったが、実際には、自分がそれをやってしまっていた。「それはちょっと違ったな」という反省が残っているそうです。

これからの営業部長・役員に求められる視座

 北澤さんの整理では、当時の「部長の仕事」としては、携帯電話を「どんなネットワークで、どうつなげ、どう売っていくか」を構想として考えることが重要だったはずです。

 ただ孫さんが求めたのは、そこではなく、「全員が1台持つ」という構想の中で、携帯電話を社会の中でどう位置づけ、料金をどう設計し、事業全体としてどう成立させるかを考えることでした。ソフトバンクだけが980円を実現するという選択は、短期の“儲かる・儲からない”では説明できません。

 通話で儲けるのではなく、「全員が1台持った世界で、パケット(データ)で稼ぐ」という未来の設計が前提にあります。だからこそ、「1台を全員に配ることのほうが重要だ」と考える構想力が経営幹部の仕事だ、という趣旨でした。

 役員と部長の間に"パキッとしたゼロイチの区分け"が常にあるわけではないにせよ、部長は現ビジネスをどうビジネスメイクしていくかをしっかり考える必要があります。一方で役員はそこにとどまらず、近未来構想、場合によってはもっと先の世界も含めて、「どういう世界を実現するのか」という構想を考えなくてはなりません。

 部長は部長として、役員は役員として、その視座の高さが必要ですね。

構想力を高めるためには「情報収集力」が必須

 孫さんが言っていたのは、「世界観の勝負」ということです。

 世界観を持つ役員、部長かどうかで事業が大きく変わります。だから世界観を磨くために働け、勉強しろ、というメッセージだったのだと北澤さんは受け止めています。

 頭に汗をかけというのは、この部分なのですよね。

 経営の一翼を担い、事業を率いようとするなら、これほどやりがいのある問いはありません。そして、そこに答えられるかどうかが、役員として、部長としての本質を問われている、ということなのだと思います。

 上司が自分の思いを超えて動き、世界観をもって行動していることが、下の人たちにとって大きなワクワクにもつながります。「この人となら一緒にやりたい」と思える上司がいることが、組織にとってどれほど価値があるか、皆さんも感じているでしょう。

この点について、役員や部長に求められているのは「描く力」です。

 実は経営者JPが「描く力」の重要因子を解析したら(「経営者力診断」)、浮かび上がったのは<情報収集力>でした。部長の役割としても、役員の役割としても、「本当にしっかり市場探索しているのか」という点は避けられません。インプットなくしてアウトプットはありません。

 私自身、事前には「思い描く」「構想を練る」といった内省的な行為が最重要因子となるのではないかという仮説を持っていましたが、実際に解析してみると、それ以上に「ちゃんとインプットしているか」が強い因子として出たことは、大きな気づきでした。

営業トップの最も重要な役割は「ビジネスの先頭に立つこと」

 北澤さんは、「営業トップの役割」として最も重要なのは、ビジネスの先頭に立つこと。間違っても、舞台の後方に立って標準化を求めることではない、と主張しています。

 高度経済成長期に有効だった、管理監督者としてのマネジメントの役割から離れ、前に立ち、自分からビジネスをつくりにいく。その力の差が企業の力の差になり、個人の力の差にもなります。だからこそ、そういう人を応援しなければならない、という趣旨でした。

 私としても、現場で活躍する経営陣・マネジメント陣の皆さんの日々の活躍、あるいは失敗をリアルに見続けている中で、率先垂範で市場にちゃんと触れているかどうかは非常に重要だと感じています。

 かつて半ば揶揄(やゆ)する言葉として「奥座敷に座っている人」という表現がありましたが、それではもうダメな時代なのですよね。AIで全ての産業が短期間で大きく上書きされようとしている今、経営幹部やマネジメント人材に最前線に出て戦う気概が求められていることを痛感します。

著者プロフィール:井上和幸

株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに

早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。


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