第39回:「気持ちはよく分かるよ」は、上司のNGワード? 若手世代と上の世代の職場コミュニケーションの“ズレ”を防ぐヒント:マネジメント力を科学する
部下に限らず、お客さまや同僚、あるいは上司に対しても、「気持ちは分かります」と伝えたくなる場面はあるだろう。しかし本当に心を寄せられているかどうかが、まず問われることを意識してほしい。
エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。いまや上司の定番お悩みとなっているZ世代のマネジメントについて、人材研究所・代表取締役の曽和利光氏をゲストに迎え、当連載筆者の経営者JP代表・井上との対談の内容からお届けする第3回です。(2024年7月23日(火)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:上司としての悩みを一掃する!Z世代を育てる・人を動かす・転職で成功する、上司コミュニケーション術」)
令和時代の“上司のNGワード”とは?
「気持ちはよく分かる」「君はどうしたいの?」「とりあえずやってみて」「あとはやっておくよ」「責任を取るよ」――このあたりの言葉に対して、「え、何がいけないの?」と感じる方人も多いと思います。もちろん、これらの言葉自体が絶対的にNGというわけではありません。
問題は“その言葉の裏側にある思考と行動”なのです。背景にあるスタンスが整っていれば問題ありませんし、そこがズレていると、この言葉自体がNGワードに変わってしまうのです。
曽和さんは言います。「『よく分かるよ』って本来、ものすごく重い言葉なんですよね。人間同士、頭の中は直接見えません。それなのに「分かる」と言い切るのは、本来ならとても責任を伴う表現です。だからこそ、それを口にできる「関係性」や「資格」が前提になります。誰にでも「分かるよ」と言ってしまうのは傲慢かもしれません」
まったく同意です。結局のところ、「この人にはそう言ってもらっても信じられる」という信頼関係があってこそ、成立するフレーズなんですよね。
「気持ちは分かるよ」と言われて、相手はどう思うか
部下に限らず、お客さまや同僚、あるいは上司に対しても、「気持ちは分かります」と伝えたくなる場面は折々あるでしょう。
僕自身はこの言葉を単体で多用しないようにしています。なぜなら、「本当にこの人がどう思っているか」というところに、自分がちゃんと心を寄せられているかどうかがまず問われるからです。
ですので、「気持ちが分かる」と言うだけでは足りない気がして、「今、こんなふうに思っているんですよね?」と、きちんと想像したうえで相手に問いかけるスタンスが大事なんじゃないかと感じています。
“気持ちは分かるよ”ではなく、“こう思ってるんじゃないかな?”と推測を述べる姿勢で対話をすれば、仮にその捉え方が的外れだったとしても、「いや、実はこうなんですよ」と相手が補足してくれますし、会話として成立します。
「この時、“私はこう思ったよ”という“アイ・メッセージ”であれば誠実に伝えられるし、“あなたはこうだ”と断定する“ユー・メッセージ”だと、正解であっても感情的に反発されるかもしれませんよね」(曽和さん)
まさにその通りだなと思います。
上下関係を知らずに社会に出る若者たち
曽和さんの著書『シン報連相』は、報連相をテーマに書かれた本ですが、曽和さん曰く、実は「早期離職する若者たち」や「リアリティショックを受けて五月病になってしまう人たち」の背景に、結局は“上司とのコミュニケーション”があるんだと。
曽和さんがいうには、今、「上下関係の経験が乏しいまま社会に出てくる若者が増えている」ということ。例えば、バイトの経験が減ったり、体育会系の部活に入っていない学生が増えたりして、年上と関わる機会が減ってきています。その結果、社会に出て初めて“40歳以上の先輩”と接することになり、戸惑うことが多いと。
なるほど、コロナ禍の影響もあって、若者の対人コミュニケーション能力、特に“上に向かうコミュニケーション”が落ちているのはデータからも明らかなんだそうです。
“上に人が詰まっている”社会のリアル
さらに曽和さんは、「上向きのリーダーシップ」というキーワードを出してくれました。これは、自分より上の人とうまくコミュニケーションを取り、動かす力のことを指しています。
かつてのリクルートで、ちょっと乱暴な言葉で「じじいリテラシー」「ジジ転がし」なんて呼ばれていたようなスキルがあります。これは、今の時代だからこそ必要なんだと。
というのも、曽和さん曰く「組織の中で“上が詰まっている”問題」はかなり深刻です。日本の人口ピラミッドは、もはや“ピラミッド”ではなく“ツボ型”。つまり、若い世代から見ると、どの組織も上層に“おじさん・おばさん世代”がぎっしり詰まっていて、簡単にはポジションが空きません。
だからこそ、上とどう付き合うかが、キャリアのカギになっているのです。
若手が“人を動かす”ための方法
「じゃあ、若手がどうやって活躍するか?」。ここまでの話から皆さんもイメージできるのではないかと思いますが、答えは「上の人を動かせればいい」です。
つまり、権限を持たなくても、権限のある人に“YES”と言わせれば、結果として動かすことができるのです。
これについては、僕自身も体験的実感があります。リクルート時代、人事や広報にいたころ、「上司や役員、各部門のトップやマネジメントをうまく使え」と何度も教えられましたし、それは自分のキャリアにとっても非常に大きな学びでした。
曽和さんのエピソードも印象深いものがあります。リクルート人事部での新人時代、人事役員とサシ飲みに行ったときに、「お前、どんなやつを採ってるんだ?」と聞かれ、当時は「地頭が〜」「コミュ力が〜」と答えていたら、「アホか!」と一蹴されたと(笑)。
そこで役員から言われたのが、「じじいを動かせるやつを採れ」という話だったそうです。
つまり、社内外の決裁権者を動かせる人こそ、組織を、社会を動かす力を持つ人材だということです。曽和さん曰く、「自分自身にはそんな力はないなぁ」と思っていたからこそ、大企業の出世は早々に諦めたそうです(笑)。
若手がのびのび働くためのヒント
『シン報連相』には、こんな思いも込められています。「歴史の中で出世した人たちは、若い頃どうだったのか?」を思い返してみたときに、実は昔から“権限のない若者が、決裁者を動かしてきた”エピソードがたくさんあります。
例えば、大久保利通が島津久光に取り入るために囲碁を勉強した話。豊臣秀吉が信長の草履を胸で温めたという逸話(これはフィクションらしいですが)など、歴史を見ても例が尽きません。
令和のいま、“上が詰まった逆三角形の社会”では、若手がのびのびとやりたいことを実現していくために、「上向きのリーダーシップ」が必要不可欠だというのが、曽和さんの一貫したメッセージです。
僕から補足するなら、この記事を読んでいる皆さんは、Z世代よりも上の世代が大半ではないかと思います。ミドル、シニア世代でも多くこれを読んでいるそんな皆さんにも、“上”がいるでしょう。社長であっても、顧客もいれば、株主などステークホルダーもいます。つまり、このあらゆる「上との関係をどう築くか」は、若手だけでなく、全てのビジネスパーソンに共通するテーマなのだと思うのです。
いかがでしょうか?
著者プロフィール:井上和幸
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
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