第38回:こんな三拍子揃った上司になりたくなければ……:マネジメント力を科学する
言葉で言いながら、行動が伴っていなければ部下は、上司の本心を鋭く見抜いている。マネジメントとは結局のところ「行動が全て」なのだ。
エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。いまや上司の定番お悩みとなっているZ世代のマネジメントについて、人材研究所・代表取締役の曽和利光氏をゲストに迎え、当連載筆者の経営者JP代表・井上との対談の内容からお届けする第2回です。(2024年7月23日(火)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:上司としての悩みを一掃する!Z世代を育てる・人を動かす・転職で成功する、上司コミュニケーション術」)
「かっこ悪い上司」にならないために
マネジメントに携わる立場として、私は常に「言葉」と「行動」が一致しているかを自問しています。特に若い世代と向き合う中で、「上司の言葉がどう響くか」を真剣に捉える必要性を強く感じています。
例えば、「私は違うと思うんだけど、会社がこう判断したからさ」といった言い方。
共感しているように見えて、実は自分の責任から逃げているように聞こえてしまいます。部下からすれば、「そう思うなら、もっと上と戦ってほしい」と感じるでしょうし、何よりその姿勢が“かっこ悪い”のです。
本来なら、たとえ自分の意見が通らなかったとしても、方針が決まった以上、それをどう自分の言葉で部下に腹落ちさせ、前向きに動機づけられるかが上司の役目ですよね。中途半端に寄り添ったふりをしても、信頼は得られません。
私自身もこれまで、「◯◯が大事だ」と言葉で言いながら、行動が伴っていなかったことがあったかもしれないなぁと。部下は、上司の本心を鋭く見抜いています。だからこそ、マネジメントとは結局のところ「行動が全て」なのだと思っています。
「古臭い上司」にならないために
時代は大きく変化しました。年功序列は崩れ、若手が責任あるポジションに就くことも珍しくなくなりました。それなのに、「私たちの頃はこんなシステムはなかった」「飛び込み営業を1日100件やっていた」などといった“昔話”をしてしまう上司もいます。これは完全に逆効果です。
彼らにとっては「だから何?」ですよね。もしかしたら、私たちの世代が変えるべきだった非効率な仕組みを放置した結果、そのツケをいま、若手が払わされているのかもしれません。
若手が言う「古臭い」とは、単なる反発ではなく、「本気で変えてくれていたら、もっと良くなっていたのに」という期待と失望が混ざったメッセージだと受け取っています。
「頭が固い上司」にならないために
今の若手メンバーは、論理的な思考やエビデンスを重視する傾向が強いです。もちろん、それは非常に大切な姿勢だと思います。ただし、まだ誰も挑戦していないような領域に、エビデンスは存在しません。そういった未踏の領域に「懸ける」覚悟こそが、上司に求められる資質です。
私も以前、部下の提案に「それって根拠あるの?」と問いすぎてしまったことがあります。でも本当は、問うべきは「これは懸けるに値する仮説か?」ということでした。
全てのファクトが揃うまで待っていたら、勝負には間に合いません。仮説に飛躍があったとしても、それを信じて一緒に前に進めるかどうか。そこに、マネジャーとしての本当の価値があるのではないでしょうか。
善意が、かえって「かっこ悪さ」になることもある
「かっこ悪い上司」の多くは、実は悪意を持っているわけではありません。むしろ、善意から来ているケースが大半です。「メンバーのために」と思って言った言葉や行動が、かえって部下には「逃げ」や「責任回避」に映ってしまうことがあるのです。
「地獄への道は善意で舗装されている」という言葉があります。私はこれを、マネジメントにおける重要な教訓として捉えています。どれだけ良かれと思っていても、行動がともなわなければ、その言葉は信頼につながりません。むしろ、逆効果になることすらあります。
ですから、「これはかっこ悪く聞こえていないか?」と常に自問したいですよね。そして、行動をもって語ることを、何よりも大切にしていくことが、令和における私たちマネジメントの最低限の責務だと、結構強く思うのです。
著者プロフィール:井上和幸
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 第37回:Z世代は上司のどこを「分かっていないなぁ」と思っているのか?
- 第36回:転職活動で採用側をしらけさせる、ミドル・シニアの自己PR
- 第35回:ミドル、シニア時代に経営陣デビューするためのキャリアステップは
- 第34回:転職者の4割以上が給与減になる「55歳」の“壁”をどう乗り越えるか?
- 第33回:AI時代、ミドル・シニアこそ「起業家のように企業で働」け!
- 第32回:若手にはないミドル・シニアの強みを活かすには?
- 第31回:高付加価値経営は、こうして実現される!
- 第30回:キーエンス出身者が明かす、高業績セールスパーソンと低業績セールスパーソンの大きな違い
- 第29回:営業利益率50%のキーエンスに学ぶ組織作り&サービス作りの在り方
- 第28回:キーエンス流「価値ある商品」を創り出す組織構造とは
- 第27回:キーエンス流・少数精鋭で高付加価値を生む「潜在ニーズに気付く力」の鍛え方
- 第26回:個人がやりがいを持ち成長し、組織が理想的に回る「3つの望ましい状態」とは
- 第25回:メンバーが「自然に本音を話せる1on1」になるまでの3ステップ
- 第24回:1on1ブームと、上司に求められる「聞く力」
- 第23回:部下に自己決定感を持たせることの大事さと、その具体的な方法
- 第22回:部下から共感を得られるマネジャーの方針の示し方とは?
- 第21回:超多忙なマネジャーを救う、メンバーの「納得」と「主体性」を引き出すコミュニケーション術
- 第20回:これからの経営者・リーダーが、組織を率いるために発揮すべき力、使うべき言葉
- 第19回:企業・組織から自律していく人たち。そんな自律型人材に愛される組織を作るポイント
- 第18回:対話、1on1。その前提としての心理的安全性が、なぜいま非常に重要であるか
- 第17回:組織が社員のやる気を失わせる! 良い会社とダメな会社を見分けるには「社外規範」と「社内規範」をチェックせよ
- 第16回:メンバーたちのやる気喪失の原因は上司にある! これを気付かせ、「学習性無力感」から脱出する方法
- 第15回:メンバーが「やる気」をなくす上司の10の言動。モチベーションアップの前に、社員の意欲低下を防ぐことこそが必要
- 第14回:ビジネススキルとしてのEQの価値・意味、使い方
- 第13回:経営者力のOSとなるEQ。今すぐできる、EQ力を高める3つのトレーニング法
- 第12回:「EQ」が高い人に失敗者なし!人選のプロが調べた、CEO選抜の成功法則
- 第11回:世界の潮流は「これからのリーダーはEQの高いリーダー」。日本にも根付くか?
- 第10回:2025年にビジネスパーソンに求められるビジネススキルは、EQ
- 第9回:パーパス経営、支援型リーダーシップの本質と、その実行の「やるべきこと」「してはならないこと」
- 第8回:リーダーシップスタイルの変遷と、いま自社が取るべきリーダーシップスタイルを見極める
- 第7回:その「1on1」、間違ってませんか? はやりのHR施策が的を外しているケース
- 第6回:コロナとジョブ型に翻弄されるマネジャー達の悩みと、だからこそ気を付けたいこと
- 第5回:役員にすべき人は、「全社最適視点」と「現場部分最適」の間を往復運動できる「四天王」型人材
- 第4回:役員になる人が持つ意外な姿勢と、役員選出時に決め手となる想定外の力とは
- 第3回:決断力を高める人は、「鵺(ぬえ)」のようなものを自分の中に抱えておける人
- 第2回:構想力の高い人は、「3つの認識」から自分なりの世界観を構築することができる人
- 第1回:社長になる人が、課長時代から共通してやっていること
