第35回:ミドル、シニア時代に経営陣デビューするためのキャリアステップは:マネジメント力を科学する
小さくてもいいので事業責任者をやることが必要で、社内でも社外でも副業でも何でもいいが、それをやらないと、ただ経営陣の近くにいても経営陣にはなれない。
エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。
ミドル・シニア層の転職が広まっている中でミドル・シニアが押さえておくべきキャリアと転職のトレンドについて、合同会社THS経営組織研究所代表社員の小杉俊哉氏、株式会社ルーセントドアーズ代表取締役の黒田真行氏をゲストに迎え、当連載筆者の経営者JP代表・井上との鼎談の内容からお届けする第3回です。(2024年2月6日(火)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:どうなる?どうする?ミドル・シニアのキャリアと転職」)
昔からよく言われる外資と内資の同一職種での賃金差は、今どうなのか?
政府が出した職種別内外賃金差では、日本企業が多くの職種で外国人よりも低い。ただ、日本にある外資系企業では差がマイルドになっています。
最近は成果型やジョブ型の流れをくんで給与体系制度を変えてきている企業も増えつつありますが、伝統的な日本企業は若い時から中堅までは働きに対する給与が低い代わりに、退職金が厚いのが現状です。終身雇用で、年齢を追うごとに仕事のパフォーマンスは落ちてくるものの、給与の還元率はどんどん上がっていくような制度設計をしているケースは、いまだにあるようです。
結果として、上記の同一職種・職位での内資外資の給与格差が特に如実に見られるのは、いわゆる課長から部長ぐらいのところとなります。
外資企業はジョブグレード(従業員が担当している職務の内容や難易度に応じて待遇を決める仕組み)があり、基本的に同じグレードであれば同じ給与額の範囲に入っていて、年齢は何の関係もないというのがあります。
また外資企業では給与に占める業績連動部分が非常に大きくなっていて、パフォーマンスが非常に高ければ年度単位で連動部分が200パーセント、かなりローレベルだと0になったりします。OTE(On-Target Earnings)と言いますけれども、いわゆるベース給を切り出すと本当はさほど高くなくて、例えば日本企業の年俸1000万円のポジションが、外資系企業だと1300万円になっている。その1300万円の年俸に対して600万円分が業績連動になっている。そこでパフォーマンスが普通だったりすると、実は外資も日系企業も、結果として年収があまり変わらないというケースも多くあります。
ちなみに参加者から、外資は英語力が必要であるため、その語学力分、給与が高いのかという質問がありました。
われわれ(小杉氏、井上)の回答は、英語力は直接には関係ない、です。
管理職であれば海外の本社とコミュニケーションしなければいけないので、当然のことながら英語力は求められます。英語力があることで給与が上がるのではなくて、そのポストに就けるかどうかの話です。
経営陣を目指すためのステップは?
参加者から以下の質問がありました。
「現在30代半ばです。まずは40歳前後で、企業に雇われるのではなく委任されるかたちでプロ経営者、経営陣を目指したい場合に、どういった経験やポジションを狙うのがいいか、アドバイスをください」
この人は、大企業よりはスタートアップで社長室など経営陣の参謀として事業の成長に寄与し、ネクストステップとして経営陣を目指すのが向いています。あるいは並行して副業をやり、スキルアップおよび出会いを増やすことで、経営陣を狙えるような機会に出会う確率を上げ、事業計画策定や業務改善を実際経験するのがいいでしょう。
これまで海外の大学を出て、外資系の製造業で調達、M&A、戦略コンサル、スタートアップの経営企画事業をしてきて、次をどうしようかと考えています。
この人が希望をかなえるためには、少なくとも30代で何らかのプロジェクト責任者をやって、PL責任を持つ必要があります。
小さくてもいいので事業責任者をやることが必要です。社内でも社外でも副業でも何でもいいのですが、それをやらないと、ただ経営陣の近くにいても経営陣にはなれません。
特にプロ経営者ということであれば、お金の収支や利益を出せるように全体を回すことがすごく重要です。
経営企画で昇進したら経営者になるのではありません。経営企画部長、経営企画担当役員になるだけです。経営企画のプロではなく、経営のプロになるには商売をしないといけません。事業を見ることです。
例えば経営企画にいる中で言えば、M&Aがいいきっかけになることはあります。現職でM&Aを行っていないのであれば、M&Aを実施する企業に転職して、そこで経営企画のマネジメントで入社し、PMI(M&A後の統合効果を最大化するためのプロセス)に絡むなどは機会をつかむために良いでしょう。
この形で買収先の経営に関与していく人は実際多くいますし、経歴を活かすには、そういった道も大いにあるでしょう。
現職での異動であっても、転職であっても、何か自分が事業を采配する側に行くことが唯一の手です。この質問者はとても良い職歴を積んでいるので、ぜひこうした機会をつかみ、経営者デビューをしてください。
著者プロフィール:井上和幸
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 第34回:転職者の4割以上が給与減になる「55歳」の“壁”をどう乗り越えるか?
- 第33回:AI時代、ミドル・シニアこそ「起業家のように企業で働」け!
- 第32回:若手にはないミドル・シニアの強みを活かすには?
- 第31回:高付加価値経営は、こうして実現される!
- 第30回:キーエンス出身者が明かす、高業績セールスパーソンと低業績セールスパーソンの大きな違い
- 第29回:営業利益率50%のキーエンスに学ぶ組織作り&サービス作りの在り方
- 第28回:キーエンス流「価値ある商品」を創り出す組織構造とは
- 第27回:キーエンス流・少数精鋭で高付加価値を生む「潜在ニーズに気付く力」の鍛え方
- 第26回:個人がやりがいを持ち成長し、組織が理想的に回る「3つの望ましい状態」とは
- 第25回:メンバーが「自然に本音を話せる1on1」になるまでの3ステップ
- 第24回:1on1ブームと、上司に求められる「聞く力」
- 第23回:部下に自己決定感を持たせることの大事さと、その具体的な方法
- 第22回:部下から共感を得られるマネジャーの方針の示し方とは?
- 第21回:超多忙なマネジャーを救う、メンバーの「納得」と「主体性」を引き出すコミュニケーション術
- 第20回:これからの経営者・リーダーが、組織を率いるために発揮すべき力、使うべき言葉
- 第19回:企業・組織から自律していく人たち。そんな自律型人材に愛される組織を作るポイント
- 第18回:対話、1on1。その前提としての心理的安全性が、なぜいま非常に重要であるか
- 第17回:組織が社員のやる気を失わせる! 良い会社とダメな会社を見分けるには「社外規範」と「社内規範」をチェックせよ
- 第16回:メンバーたちのやる気喪失の原因は上司にある! これを気付かせ、「学習性無力感」から脱出する方法
- 第15回:メンバーが「やる気」をなくす上司の10の言動。モチベーションアップの前に、社員の意欲低下を防ぐことこそが必要
- 第14回:ビジネススキルとしてのEQの価値・意味、使い方
- 第13回:経営者力のOSとなるEQ。今すぐできる、EQ力を高める3つのトレーニング法
- 第12回:「EQ」が高い人に失敗者なし!人選のプロが調べた、CEO選抜の成功法則
- 第11回:世界の潮流は「これからのリーダーはEQの高いリーダー」。日本にも根付くか?
- 第10回:2025年にビジネスパーソンに求められるビジネススキルは、EQ
- 第9回:パーパス経営、支援型リーダーシップの本質と、その実行の「やるべきこと」「してはならないこと」
- 第8回:リーダーシップスタイルの変遷と、いま自社が取るべきリーダーシップスタイルを見極める
- 第7回:その「1on1」、間違ってませんか? はやりのHR施策が的を外しているケース
- 第6回:コロナとジョブ型に翻弄されるマネジャー達の悩みと、だからこそ気を付けたいこと
- 第5回:役員にすべき人は、「全社最適視点」と「現場部分最適」の間を往復運動できる「四天王」型人材
- 第4回:役員になる人が持つ意外な姿勢と、役員選出時に決め手となる想定外の力とは
- 第3回:決断力を高める人は、「鵺(ぬえ)」のようなものを自分の中に抱えておける人
- 第2回:構想力の高い人は、「3つの認識」から自分なりの世界観を構築することができる人
- 第1回:社長になる人が、課長時代から共通してやっていること