検索
連載

第34回:転職者の4割以上が給与減になる「55歳」の“壁”をどう乗り越えるか?マネジメント力を科学する

労働力が減って売り手市場になるため、「仕事が見つかりにくかった人も、見つかりやすくなるんじゃないか」という誤解があるが、「選ばれるミドル・シニア」と「選ばれないミドル・シニア」に二極化するという。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。

 ミドル・シニア層の転職が広まっている中でミドル・シニアが押さえておくべきキャリアと転職のトレンドについて、合同会社THS経営組織研究所代表社員の小杉俊哉氏、株式会社ルーセントドアーズ代表取締役の黒田真行氏をゲストに迎え、当連載筆者の経営者JP代表・井上との鼎談の内容からお届けする第3回です。(2024年2月6日(火)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:どうなる?どうする?ミドル・シニアのキャリアと転職」)

人材に選ばれる企業、そうでない企業の二極化が始まっている

 極度の労働力不足が日々メディアでも報道されており、目に見えて始まっていますが、その中でいくつか誤解されている節があります。

 まず企業側のことから見ますと、この労働力不足でどの企業も満遍なく採用難になるんじゃないかと思っている人が多いようですが、現実には、「採用できる企業」と「できなくなる企業」の二極に分かれるのです。

 これからは、働く人材側がファシネート(魅了)されない企業は選ばれなくなるという構造になります。需給が反転したことによって、「採用」とか「リクルーティング」という言葉自体の概念も変わり始めています。

 例えば私たちが日常的に使用している「採用」という言葉は、昆虫採集の「採」に「用いる」という、上から目線を感じさせます。

 企業側が人材を選ぶ一方であったこれまでは良かった(正しかった)かもしれませんが、これからは企業が上から目線で採用とか言っている場合ではありません。他の会社と比較検討された上で、あなたが欲しい人から「選ばれる」にはどうするのかという構えを作っていかないと、見向きもされなくなり始めています。

個人も「選ばれるミドル・シニア」と「選ばれないミドル・シニア」に二極化する

 一方、個人側を見れば、「選ばれるミドル・シニア」と「選ばれないミドル・シニア」も二極化します。

 労働力が減って売り手市場になるから、「仕事が見つかりにくかった人も、見つかりやすくなるんじゃないか」という誤解があります。

 企業が求めるレベルは業種や規模、提供しているサービスやものによって千差万別で、そこで求められる「優秀な人」の定義はさまざまであり相対的なものですが、企業各社は自社が求めるレベルに達した人だけを必要とします。そうではない人が選ばれる機会は、今まで以上に少なくなっていきます。

 企業も人も、選ばれるか選ばれないかに二極化するのであって、平均的に薄っすらみんなが苦しくなるわけではないのが、これから起こってくる未来なのです。

 特にシニア世代の転職で言えば、力はあるものの、なかなかいい機会に巡り合わないケースが多いですね。

 雇用されることの延長線で考えますと、会社に雇われていないと不安だという人が多くいますが、会社に雇われている以上は定年や若手との世代交代から逃れることはできません。

 なのに、なぜ企業に雇用されることが安定だと思うのか、そもそも根本的に考え直したほうがいいのではないでしょうか。そういう時代に既に入っています。

これからのミドル・シニアの「働く構え」はどうあるべきか

 これからは、「会社に雇われる力もあるし、自分で起業する力もある」といった選択肢を複数持っておくことが精神衛生的にもすごく大事なポイントとなります。結果的にそれが自身のエネルギーの源にもなるので、わざわざ気持ち的に追い詰められる方向に自らを持っていってしまわないように注意する必要があります。いつでも「自分で自分を雇える状態」を作ることこそ、これからのミドル・シニアの皆さんの望ましい働き方となります。

 ミドルの転職市場では、いま40代は一番の売り時です。

 時代の流れで今実感しているのは、10数年前までは転職市場における40代は今で言う50代前半ぐらいの感じでしたが、今や40代は10数年前までの30代の感覚です。もっと攻めて仕事をしても良い世代ですが、当事者である40代自身が過去のイメージを引きずってしまっている印象です。

 AIなど働く環境変化の中で、リスキリングが言われていますが、大事なことは自分のOSをアップグレードしていくことだと小杉さんは言います。コンフォートゾーンに閉じこまらず、アウェイで勝負をしましょう。

 「アプリ=スキルを磨いていくのでなく、OSをアップグレードしていくイメージです。転職で場を変えるのもあるでしょうし、自分自身を変えるのもあると思います。例えば自社だけでは得られない知見を求めて、普段接することのない他社の人たちと議論するような場に、自らを放り込むとか。これはいくらでもオンラインでできるんで、こういう刺激を得ることじゃないかと。刺激を得ないと、それ以上自分を上げようとはなかなかならないじゃないですか。なので、何か非連続的に影響を受けるような刺激を、自らに課してください。社内で何か提案して新しいプロジェクトを担当するのでもいいですし、別に会社を辞めなくても、副業やNPOで何かやるのでもいいですし。今までとは違う種類の人とつき合うのは、すごく大きな刺激になるはずです」(小杉さん)

 こうした時代の流れの中で、企業における役職定年の制度は、企業側の機会損失になり始めています。人それぞれで世代を超えて力ある人材を長く活かしていくべきときに、わざわざ一律で特定の年齢・世代の人材のやる気を無くさせてどうするのでしょうか。

 個人側としては、自分の「働く持ち時間」も可視化して、上記までで話したようなことにチャレンジすることがまずはなによりも大切です。

著者プロフィール:井上和幸

株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに

早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る