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第42回:マネジャーの「言語化能力」が重要となっている理由。「見て盗め」が通用しない時代に活躍する上司像とはマネジメント力を科学する

これからは“俺についてこい”型ではなく、一人ひとりに合わせたマネジメントが必要だ。メンバーの自立性や創造性を引き出す環境を整えるリーダーが求められている。

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 エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。いまや上司の定番お悩みとなっているZ世代のマネジメントについて、人材研究所・代表取締役の曽和利光氏をゲストに迎え、当連載筆者の経営者JP代表・井上との対談の内容からお届けする第3回です。(2024年7月23日(火)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:上司としての悩みを一掃する!Z世代を育てる・人を動かす・転職で成功する、上司コミュニケーション術」)

世代論よりも個性論

 今は世代ではくくれない多様性の時代となっています。「Z世代が」というよりも、博報堂の調査で“消齢化社会”と言われているように、世代差が消えて、むしろ個人差が大きくなっています。

 そもそも世代論として「新人類」などと呼ばれてきた若者論は時代を超えて繰り返されているだけで、本質的には“個人を見ること”が重要になっているのです。だからこそ、マネジメントのポイントは目の前の一人ひとりとの1to1コミュニケーション。目の前のメンバーを高い解像度で観察する力が欠かせません。能力や性格、価値観、モチベーションやキャリア指向までをしっかり把握できて、初めて真の1to1コミュニケーションが可能になります。

「環境整備型」のリーダーシップへ

 曽和さん曰く「これからは“俺についてこい”型ではなく、一人ひとりに合わせたマネジメントが必要だ」と。確かに、高度成長期のような“早く安く大量生産”の競争は薄れ、差別化や創造性が問われる時代です。だからこそ、統制よりも、メンバーの自立性や創造性を引き出す環境を整えるリーダーが求められています。

 もちろん非常時には牽引型リーダーシップも必要でしょう。でも平時においては「環境整備型」であることが決定的に重要になっていると、僕も実感します。

 さらに、働き方は非同期化が進んでいます。オフィス出社回帰はしていても、ハイブリッド型の企業が大半を占めており、フルリモートの会社もコロナを経て珍しくなくなりました。僕の会社もフルリモート、曽和さんの会社もリモート中心です。曽和さん曰く「非同期の働き方では“言語化能力”が極めて大事だ」と。かつては「見て盗め」「背中で語れ」も通じましたが、今は言葉で伝えるしかありません。だからこそ、言語化の精度、語彙力、ニュアンスを含めた表現力がマネジャーに求められるのです。

言語化能力の重要性

 僕自身も思うのですが、文章でのやり取り力はマネジメント層の採用可否にも直結しています。フィードバックを「良かったです!」だけで返すのか、「この点に魅力を感じた、一方でこの点は確認したい」と具体的かつロジカルに書けるのか。この差は思考力や論理的思考力そのものです。

 曽和さんも「仕事では解像度高く表現できなければダメ。僕は食レポが苦手で『おいしい』しか言えない(笑)」と冗談めかしていましたが、本当にそうだと思います。単なる感覚ではなく、言語化して伝えられることが今は強く問われています。

 非同期化が進んだいま、曽和さん曰く「マネジャーもコピーライターにならなければならない」と。僕も同感です。以前は必須でなかったスキルかもしれませんが、今や確実に必要になっています。

「報連相」のスタイルは人それぞれ

 報連相についても曽和さんはこう言います。「まずはやり過ぎるくらい報告し、上司に『そこまで要らない』と言われたら少しずつ引いていく。そのスタイルは人によって違う。だから最初は実験を厭わないことが大切だ」と。

 確かに、報連相の頻度や深さの“ズレ”がトラブルの温床になっているケースは多いと思います。任せていい部分は任せる、でも相談すべきところは外さない。そのバランスは人ごとに調整していくしかないのでしょう。

成長できるチームを作るために

 こうした状況の中で、僕が強調したいのは、上司が「プレイグラウンド(遊び場)」を提示できているかという点です。つまり「この部署のゲームはこういうフィールドで、こんなことをするんだ」ということを明確に示します。その上で、メンバーにはできるだけ広い裁量を与え、そうすることで、自由と責任の中でやりがいを感じ、成長できる環境になるのではないでしょうか。

 これからの上司像は、個別対応力を持ち、環境を整え、言葉で伝えられるリーダーです。その上でチーム全員が自由に挑戦できるフィールドを示すことが大切なのだと、改めて強く感じます。

著者プロフィール:井上和幸

株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに

早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。


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