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第41回:これからの時代に求められる上司・捨てられる上司マネジメント力を科学する

これからのマネジャーは抜てきや昇進の際、「業績面での実績」だけでなく、「どんな人を育てたか」が評価されるだろう。人を潰して実績を出すような人を幹部にしては、組織そのものが壊れてしまうだろうからだ。

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 エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。いまや上司の定番お悩みとなっているZ世代のマネジメントについて、人材研究所・代表取締役の曽和利光氏をゲストに迎え、当連載筆者の経営者JP代表・井上との対談の内容からお届けする第3回です。(2024年7月23日(火)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:上司としての悩みを一掃する!Z世代を育てる・人を動かす・転職で成功する、上司コミュニケーション術」)

人を使い捨てる時代が、確かにあった

 コミュニケーションの観点から、これからの時代に求められる上司像について考えてみます。

 曽和さん曰く、昔は良しとされた「一将功成りて万骨枯るタイプ」、部下たちを使い潰して成果を上げる上司が、確かにかつては一定数存在していました。団塊ジュニア世代や氷河期世代のように、人員の母数が大きかった時代には、多少犠牲を出しても結果を出すことが許容された風潮があった、と。

 育成においても、「千尋の谷に突き落として這い上がった者だけを育てる」といった、どちらかといえば“育てる”というより“選抜する”考え方が主流だった昭和の価値観が存在していましたね。

 でも今は、そんなことをもしやろうとしても、そもそも人が足りません。リソースとしての「人材」の価値が高まり、使い潰すどころか、いかに活かし、育てるかが問われる時代となりました。

これからのマネジャーの登用要件は、「どんな人を育てたか」

 曽和さんは、短期に成果を出しても組織を潰すようなリーダーは、今の時代では問題視され、排除の対象にすらなり得ると指摘します。

 人材育成の重要性が増しており、PM理論で言うところの「メンテナンス(M)」の力を持ったマネジャーが、いまこそ求められているんですよね。

 実際、「2040年に1100万人の労働力が不足する」「2030年ですら300万人以上足りなくなる」といったデータが出ている状況を踏まえれば、「万骨枯る型」のリーダーは時代遅れどころか、害悪でしかないでしょう。

 もし、シニアやミドル世代の中に、この昭和の人材マネジメントスタイルの残像が残っている人がいるとしたら、その意識の転換が何よりも急務です。

 これは採用や昇進の場面でも同様です。

 これからはマネジャーの抜てきや昇進の際に、「業績面での実績」だけでなく、「どんな人を育てたか」に注目すべきです。採用においても、社内の昇格や登用においても、人を潰して実績を出すような人を幹部にしてしまうと、組織そのものが壊れてしまう危険性があります。

「功ある者(業績を出す人)」と「徳ある者(人を育てられる人)」の処遇

 外資系企業では、機能的に短期成果を求める観点から「万骨枯る」ような成果主義タイプの人材が傭兵的に短期で採用されることが、いまでもあります。一方、日系企業では、そういう人は組織的なハレーションを起こしやすいため、そもそも採用されない傾向が強くあります。

 本人は「マネジメントポジションを任せてほしい」と思っていても、なぜか抜てきされない──そんなケースの多くに、実はこうした背景もあるんですよね。

 曽和さんは、西郷隆盛の「功ある者には禄を与えよ、徳ある者には地位を与えよ」という言葉を引用し、徳が重視される時代になったと言います。サイバーエージェントの藤田晋さんも似たようなことを言っていますね、「時代が変わっても本質は変わらない」と。

 この「徳を見て地位を与える」考え方は、昔よりむしろ今の方が強く求められている印象すらあります。実績だけで遇する、というのは、今や社内では通用しにくくなってきていると感じます。

 では、成果は出せるけどマネジメント適性に欠ける人材をどう扱えばいいのか? については人事制度設計での大きな課題です。

 曽和さんも「プレイヤーとして優秀だけど、管理職としては微妙な人をどう遇するかは、人事制度あるあるの悩み」だと話します。

 仔細は紙幅の関係でここでは割愛しますが、例えばブロードバンド型の報酬制度で、職位が上がらなくても報酬は上がるような仕組みにするとか、ダブルラダー型でスペシャリストとしての昇給ルートを用意するなど、テクニカルな設計で解決することも可能ではありますね。

成果を出した“風(ふう)”の人の落とし穴

 一方で、成果を出したように見えて、実はチームが崩壊していたり、周囲に負担をかけていたり、食い逃げしていくような人もいます。こういったケースにどう対応すべきか?

 曽和さんは「360度評価」の活用が有効だと話します。上司からの評価だけでは見えない、チームメンバーや周囲の声を可視化することで、隠れていた問題点があぶり出されると。

 曽和さん曰く、「360度評価は昔からある手法ですが、近年また導入する会社が増えてきている」とのこと。昇格や育成の判断材料として使われており、例えばリクルートでは人材開発・組織開発において長年にわたって重視されてきた多面レビューでもあります。昨今ではスタートアップ企業でも導入するところも増えていますね。

 僕も、360度のように評価の視点が多面的で、業務の進め方自体がオープンであることが、フェアで正しい評価につながると感じています。閉じた1on1だけで判断されてしまうと、歪んだ構造やごまかしが生まれてしまうこともあるからです。

 やはり、「お天道様は見ている」──。そんな姿勢で、誰にとっても健全な環境をつくっていくことが、これからの時代のリーダーには求められているのだと思います

著者プロフィール:井上和幸

株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに

早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。


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