第40回:「シン報連相」と、上司・部下相互の歩み寄り:マネジメント力を科学する(2/2 ページ)
現場で日々起きているコミュニケーションは、まさに“ケースバイケース”の連続。その現実に即したアプローチが必要で、これが「シン報連相」だ。
「分からないことはお客さまに聞け」というスタンス
リクルートにいた頃、印象的だった言葉があります。
「分からないことはお客さまに聞け」――私の世代よりも上の人たちがよく使っていたフレーズです。のちにプロとしての姿勢に疑問が出てきたこと、リクルート事件での社会的な非難などからあまり使われなくなりましたが、私は今でもその言葉に共感しています。
「“大いなる素人集団”という言い方もありましたよね。もちろん、何も準備せずに行って“教えてください”というのは違いますが、それでも、調べても分からないことや、理解が及ばないことは、素直にお客さまに聞く。それが本当の理解につながると思います」(曽和さん)
まさに今、マーケティングや経営の現場で言われている“顧客中心”の姿勢ですよね。
曽和さんはさらに言います。「もちろん、“そんなことも知らないのか”と怒られるリスクもあります。でも、半分は“テヘペロ”でいいんです(笑)。『すみません、知りませんでした』と素直に言えば、むしろ好印象だったりするんです」
私もまったく同じ考えです。
今は、YouTubeの要約動画や切り抜き情報で“分かった気”になれる時代です。でも、そういうコンパクトな理解では、人の本質にはなかなか迫れないのです。
人間のような複雑な存在を本当に理解しようとしたら、それなりの時間と手間が必要ですよね。
組織で起きる問題のほとんどは「誤解」
曽和さんは言います。「組織で起きる問題のほとんどは“誤解”です。上司も部下も、基本的には善意で動いています。なのに、すれ違いや思い込み、価値観の違いで、いろんな摩擦が生まれてしまうんです」
本当にその通り。だからこそ、部下にも“上向きのリーダーシップ”が必要ですし、マネジメントとは「自分の見え方」を理解することでもあります。
上司の立場からも、部下の立場からも、どちらの視点も理解することが、健全な関係性と組織文化を築いていく鍵になるのではないでしょうか。
著者プロフィール:井上和幸
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
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