第46回:部長は、中間管理職なのか、経営陣なのか。役員が中間管理職になっていないか:マネジメント力を科学する
誰にどこまでを任せるのかとか、部長にしっかりと部長としての仕事をさせる、役割に対して権限を委譲し上の事業部長や役員に覆い被されないように仕切らなければならない。
第43回:生産性を大きく落とす、これまでの営業手法への“とらわれ”。企業の成長を左右する「営業部長」の役割
第44回:1on1が営業の“詰め会”……Z世代が「ダサい」と去っていく会社 古い組織体質を変えるために、営業トップに求められる観点
第45回:ほとんどの営業リーダーが“戦略の立て方”を勘違いしている 伸びる企業・伸びない企業の明暗を分ける戦略展開・組織作りのポイントは
エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。AI時代に難易度を増していると言われる"営業力"強化をテーマに、東京工業大学の大学院の特任教授を務め、日本で初めてのMBAでの営業カリキュラムを受け持つ北澤孝太郎氏をゲストに迎え、当連載筆者の経営者JP代表・井上との対談の内容からお届けする、第4回です。(2024年5月14日(火)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:これからの会社の成長の鍵を握る![決定版]営業トップはこう戦え!」)
部長の活躍を阻む上役の存在
先日、転職の相談で打ち合わせをしていた人の話です。
某社で事業開発部長を務めていましたが、聞くととても良い動きをしていました。ところが、上の事業部長がその彼の動きを面白く思っていませんでした。役割を外したりなどのネガティブな介入が続き、「転職をしたい」という話になってしまったのです。
この話に対して北澤さんは、「要するに、事業部長側に力がないから“やっかむ”ので、言葉が適切かどうかは別として、その状態であれば辞めたほうがいいでしょう。そうでなければ、日本は変わりません」と……。
こうした役職のせめぎ合いは、経営者にとって避けて通れず、しっかり向き合わないといけませんね。誰にどこまでを任せるのかとか、部長にしっかりと部長としての仕事をさせる、役割に対して権限を委譲し上の事業部長や役員に覆い被されないように仕切らなければなりません。
リーダー層の激しい二極化
よく「鯛は頭から腐る」と言いますが、変えていくうえで最も難しいのは「鈴を付ける側」、つまりトップそのものです。トップがこの話のような事象に気づき、理解し、そして動き出さなければ、組織は変わりません。
ここで怖いのは、「営業部長が孤軍奮闘」になってしまうことです。この点について北澤さんは、現実にそうなり得るとしても、外部統合をしっかりと担う営業部長の経験・キャリアは、これから非常に活きます。この5年ほどで状況は相当変わるはずで、きちんとキャリアを積んだ人だけが次のステージで活躍できる、という見立てです。
私も転職市場を見ている立場として感じているのは、シニアマネジメントとして求められる人材像は明確になっている一方で、そこに応えられる人材は二極化が激しいことです。部長クラスや役員クラスの採用では、会社として変革を牽引してほしいという期待が強いのですが、肩書き上は部長格であっても、その要求に完全にミートできる人は決して多くはありません。
自分でキャリアを切り拓く
そもそも部長であれ役員であれ、自分を必死に高めようとしている人は、他をやっかんでいるような暇はありません。必死に変わろうとしている人は、自分でキャリアをつくっていけます。一方で、周囲ばかり気にして「自分にはできない」「自分より上に出そうなヤツは邪魔をしよう」などという人はキャリアを絶対につくれません。
ですから、シンプルに言ってしまえば、そういう人の下にいるのは時間の無駄です。人のふり見て我がふり直すきっかけにするのは良いですが、それ以上は関わらないほうが良いですよねと、北沢さんは笑いながら付け加えていました。
まったくそのとおりですね。ストレートに言ってしまえば、見切りをつけるということです。
もちろん、コロコロ転職することが良いとは思いません。しかし、転職も採用も含めて、今のような“やっかみ”や理不尽が浄化されていく方向に動き、流動性が高まること自体は良いことです。理不尽な状況に我慢し続けることは、いろいろな意味で良くないし無駄ですから、そこから解き放たれる方向に個別の企業にも、人材市場全体としても働いてほしいと思います。
「幹部人材」と「経営人材」の違い
この北澤さんとの対談でメインテーマとなっている外部統合やイノベーションは、まさに「描いて決める」領域が大きいと思います。部長がしっかりと描く、そして課長に求めるべきことは、部長が描いたものをどう実現するか。私たちは、幹部人材を「問いに答える人」、経営人材を「問いを作る人」と表現していますが、部長は「経営人材」、課長は「幹部人材」となりますね。
実は経営者JPでは、取締役陣・執行役員陣を「経営人材」、部長と課長レイヤーを「幹部人材」と定義しているのですが、北澤さんは「一言で言うなら、幹部人材はできるだけ営業課長までで成り立たせてほしい」という趣旨を述べました。部長クラスは「幹部人材」と「経営人材」の境目におり、ここが接続されないと良い会社にならないので、部長クラスを“幹部人材にとどまる存在”だと誤解しないでほしい、という指摘でした。
この対談の前回までで北澤さんが話していた「部長の定義づけがされていない」という問題は、まさにこの境目の曖昧さの中にあるのだと再認識しました。実は、そもそも少なからぬ企業で、役員と部長の役割の違いも、はっきりしていないケースは多いのですよね。
かつての組織構造では成り立たない時代に
経営者JPでも役員研修を担当することがありますが、「役員も“問いに答える側”(幹部人材)になっているので、“問いを作る側”(経営人材)に回ることを役員陣に教えてほしい」というオーダーは多くあります。北澤さんも役員研修を手がけていて、研修の場でも、役員は問いを立てる側であり、より徹底してビジネスメイキングをしなければならないが、やり切るだけの力がなかなかない、という問題意識を話していました。
全ての会社がそうではありませんが、私たちが支援するケースではオーナー系企業が比較的多く、トップが全ての問いを立て、役員以下がそれに答える構図になっていることがあります。良い悪いは別として、時代はもう変わっているので、その構造では成り立たないことに気づき、橋を架けたいと考えている会社が増えていますね。
北澤さんの話を聞いて、私の中でさらに整理が進んだのは、これまで「役員クラスが端境」になっていたものが、実は部長が端境にならなければいけない、という点です。ここを接続できるかどうかが、これからの組織と経営の分水嶺になるのではないでしょうか
著者プロフィール:井上和幸
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
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