グローバル競争の生き残りの鍵は“グローバル最適”にありITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

日本企業が今後、海外進出を加速させるにあたっては、組織規模が巨大で、しかも業務の効率が極めて高いとされるグローバル企業との競争にさらされることになる。そこで生き残ることができるか否かの鍵となるのが“グローバル最適”だ。

» 2009年01月15日 15時00分 公開
[岡崎勝己,ITmedia]

グローバル企業との競争を勝ち抜く手法とは?

 国内市場の成長率の鈍化を背景に、今後より高い成長が見込める新興国への進出を加速させている日本企業。ただし、グローバル化を進めるにあたっては課題も少なくない。国内企業と比較して経営効率がはるかに高いとされる海外のグローバル企業との競合がその1つ。税制や商慣習が参入障壁となり、国内企業間の競合が多かった国内市場とは大きく異なり、国外市場ではグローバル企業に正面からぶつからざるを得ない。

 マネジメント手法の見直しも不可欠だ。日本企業はこれまでの海外進出の過程で、連結決算が可能な仕組みの整備を推し進めてきた。だが、競争がさらに過酷さを増す中にあって、人や物の流れを把握するのみならず、各国のニーズなどを踏まえた上で、その地に根付いた経営を行うことが強く求められているのだ。


 アイティメディアは2008年12月11日、グローバル経営時代において勝ち残るための経営とIT戦略をテーマとした経営者向けセミナー「第7回 ITmedia エグゼクティブセミナー」を開催。同セミナーで「グローバル最適経営の実現を目指して」と題する講演を行ったアビーム コンサルティング プロセス&テクノロジー事業部の原市郎プリンシパルは、「グローバル化は内需型も含めあらゆる業界で進んでいる。キリンビールでは海外の売り上げを伸ばすことで、この7年で全体の売上高を3倍増す計画だ。ただし、グローバル競争においては時価総額で数倍にのぼる企業を相手に競争にしなくてはならない。そうした中で勝ち抜くためには、ローカル市場への適合度を高める“グローバル最適”を実現することが不可欠となっているのだ」と強調した。

重複業務の一掃と現地ニーズへの対応を両立したP&G

アビーム コンサルティングの原市郎氏 アビーム コンサルティングの原市郎氏

 グローバル最適とは、全体最適の観点でCOE(Center Of Excellence)が確立され、同時に事業や拠点などいわゆるEDGEにおける競争力が発揮されている状態と定義される*1

 原氏によると、グローバル最適化を成し遂げた代表的な企業がP&Gだ。同社は1980年代以降、年率9%に近い売り上げの伸びを記録してきたものの、90年代に入ると一転して成長が鈍化。その理由を探ったところ、実は顧客ニーズにいち早く対応できるよう、商品別の組織体制を採用していたことによって多数の重複する業務が発生し、その結果、企業としての効率性が低下してしまっていたことが明らかになったという。

 この問題を解決するため、同社では製品やサービスごとに設けていた多数のビジネスユニットを3ユニットにまで集約し、グローバルに統括する体制に改めた。その一方で、個別競争力を残すために地域に根ざした活動をする地域別組織「マーケット・ディベロップメント・オーガニゼーション(MDO)」を全世界に7つ設置。併せて、SAPの導入を通じて各ビジネスユニットのノンコア業務を「グローバル・ビジネス・サービス(GBS)」と呼ばれる新組織に移管させることで、最終的には業務をIBMなど外部にアウトソーシングし、現地のニーズへの柔軟な対応と、ITリソースの最適配分を実現したのである。

 実際に、P&Gはこれらの取り組みを通じて6億ドル以上のコスト削減を実現。さらに、かつては北米の受注システムの変更に数年を要したにもかかわらず、その後に米Gilletteを買収した際にはわずか15カ月でシステム変更を完了するるほど対応力を高めたという。

 「P&Gの変革が成功したのは、IT部門をグローバル・ビジネス・サービス(GBS)と統合させ、効率化できる仕組みを作った上で業務をアウトソースするという段階的なアプローチを採用したからこそ。道筋をつけず一気に変革すれば、場合によってはシステムがブラックボックス化する可能性もあった」(原氏)


*1 COEは企業全体やグループ全体での優位性、刃先を意味するEDGEは事業や拠点といったローカルでの優位性というニュアンスを表現している

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