組織におけるシナリオプランニングの実践方法――外部環境分析の進め方VUCA時代の必須ツール「シナリオ思考法」(1/2 ページ)

シナリオプランニングでは、一般的に自社や個人ではコントロールできない要因の変化に着目し、「外部環境要因」をなるべく多く収集するのが最初のステップ。

» 2018年03月19日 07時16分 公開
[新井宏征ITmedia]

 前回の記事では、シナリオ作成の一般的なプロセス(図1)にし従い、シナリオプランニングを考えるための核となるシナリオテーマの設定方法について紹介しました。今回は、2番目のステップである外部環境分析の進め方について紹介します。

図1:シナリオ作成の一般的なプロセス

シナリオプランニングにおける外部環境分析

 外部環境分析は、2つのステップで行います。

(1)シナリオテーマに関連する情報収集

(2)収集した情報の分類

 まず「シナリオテーマに関連する情報収集」では、設定したシナリオテーマに関連しそうな情報を収集します。この時、収集した情報を「外部環境要因」と呼びます。シナリオプランニングでは、一般的に自社や個人ではコントロールできない(あるいはコントロールしにくい)要因の変化に着目します。この「外部環境要因」をなるべく多く収集するのが最初のステップです。

 次の「収集した情報の分類」では、最初のステップで収集した外部環境要因を「不確実性」と「影響度」という観点から分類します。シナリオプランニングでは、設定したテーマにおける不確実な事象に特に目を向けます。日頃、私たちは確実に起きると考えているものに目を向け、意思決定を行っています。10年後に起きるかどうか決めきれないものに時間を割くよりは、ここ数カ月から数年以内に影響がありそうな出来事を意識し、それに対応するためのアクションを考えます。一方、シナリオプランニングでは、そのような確実な出来事ではなく、起きるかどうかは決めきれないが、起きてしまった場合に影響が大きい不確実な要因にあえて目を向けます。

 このようにシナリオプランニングにおける外部環境分析では、通常の情報収集とは異なり、自分たちではコントロールできない不確実な要因を元にして考えていきます。

シナリオテーマに関する情報収集の進め方

 ここからは2つのステップを詳しく紹介します。まず、シナリオテーマに関する情報収集の進め方です。

 このステップでは設定したシナリオテーマに関する情報を収集します。例えば「10年後の日本における働き方に関するシナリオ」というテーマでシナリオを作成すると想定します。このテーマを元にして、10年後の働き方に関連すると考えられるさまざまな要因を収集します。

 この時、やみくもに情報収集をするのは効率的ではありません。そこで、STEEPと呼ばれるフレームワークを活用します(表1)。

 このフレームワークに沿って、テーマに関連する外部環境要因の情報収集を行います。例えば「10年後の日本における働き方に関するシナリオ」というテーマで考えてみると、技術の要因としては「AI(人工知能)の普及」や「自動運転車の普及」、経済の要因としては「消費税増税」や「組織形態の変化」などの要因が浮かんでくるかもしれません。

 実際のワークショップでは、多くの人がこの外部環境要因の情報収集のステップで苦労します。例えば、技術系の職種の人であれば「技術」に関する要因はたくさん出てくるのですが、他の要因はなかなか思い浮かびません。このように日頃自分が関心を持っている分野以外の要因を出すのは簡単ではありません。

 しかし、このステップこそがシナリオプランニングを実施する意義の一つです。日頃、技術のことばかり考えているからこそ、シナリオプランニングではあえて技術の使い手である「社会」に目を向けてみたり、技術の発展に影響を及ぼす「政治」に目を向けてみたりします。こうして、普段なら意識しない分野にも目を向けることが、自分や自社がとらわれている思い込みを自覚するきっかけになるのです。シナリオを作成するプロセスで、自分たちの常識や思い込みに目を向け、視野を広げていけることが、シナリオプランニングのメリットの一つです。

 このように自らの視野を広げていくような情報収集をするためには、普段は目を向けないような情報源にも目を向けることが大切です。有料の情報源もたくさんありますが、まずは省庁が出している白書に目を通してみるのも良いでしょう。

 技術のことを調べたい場合は総務省の情報通信白書や文部科学省の科学技術白書、働き方について調べたい場合は厚生労働省の厚生労働白書や内閣府の男女共同参画白書などに目を通してみましょう。

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