生き残れない経営
なぜ経営現場でドラッカーを実践できないのか――ドラッカーの哲学~その2(1/2 ページ)
前回は、「マネジメントの発明者」とも呼ばれるピーター・F・ドラッカーの名著「マネジメント」(上田惇生訳 ダイヤモンド社)の前半の要所を概観し、経営現場の実態を分析しながら、ドラッカーの哲学・思想の幅広さと奥の深さに触れた。
実は、アゲインスト(逆風)の昨今こそマネジメントのあり方を問い直す意味があり、ドラッカーは非常に参考になるはずだが、ドラッカーが随所で評判になっている割には、経営現場でドラッカーを実践できていない。なぜか。今後の記事連載の中で随時ドラッカーを取り上げながら、経営現場の実態の中からその原因を抉り出し、対策を探っていこう。
しかしそれを論ずる前に、ドラッカーは単なる経営学者ではなく、社会科学者でもあり哲学者でもあり、はたまたその著述から文学者の趣さえ窺える極めて幅広くかつ奥の深い学者であると思われることから、著書から垣間見える彼の哲学を分析しておく必要がある。
今回は前回の続きとして、ドラッカーの著書の中半から後半にかけて読み取れるドラッカーの特異な哲学について、経営現場の実態と合わせ分析を試みよう。
さて、まずマネジメントの必要性を独特な表現で説くくだりがある。マネジメントを皮膚から骨格に交替する例えである。フォード社の創始者ヘンリー・フォードが、マネジメントを不要と考え、オーナー兼起業家とその助手で十分と考えたために、難攻不落の帝国に数年で斜陽が訪れることになった。一方、フォード社の巨大な力に押しつぶされていた、小会社を合併したGMが、規律のない封建領主たちを一つのトップマネジメント・チームに組織することにより、5年後に米国自動車産業のトップの地位を占めることができた。
ドラッカーはユニークな理解しやすい発想で、フォード社を硬い丈夫な皮膚で支えられた昆虫に、GMを骨格で支えられた脊椎動物に例える。例え製品が優れ、従業員が有能で、ボスが偉大な力と魅力を持っていても、組織がマネジメントという骨格を持つように質的に変身しない限り、企業は生き残れない。それは、企業の大小あるいは新旧には関係ない。
企業全体、あるいは事業部門が硬い皮膚に支えられた昆虫の発想で満足している例が、現実の経営現場でいかに多いことか。例えば、某大企業では10年近くトップの座にある社長が、人事を私物化しているという噂がある。
火のない所に煙は立たない例えがあるが、事ほどさようにたとえ日本を代表する大企業でさえ、永年トップの座にいる社長がまさにまるでオーナー起業家のように封建的に振る舞い、昆虫に退化していることがあり、すべてに弊害をもたらしている。しかし、本人はそのことに決して気づかない。多くの経営者は、自らが昆虫のままか、脊椎動物を目指しているか大いに自省しなければならない。
次についても、すべての経営者が反省を迫られよう。
「意思決定における第一の原則は、意見の対立を見ないときには決定を行わないことである。」意見の対立があるときに意思決定をしろとは、しかもそれが第一の原則とは、逆説なのか、意見対立が社内を活性化するとでもいうのか、その後の実行や成果はどうなるのか、禅問答でもあるまいし、一瞬ドラッカーの真意を測りかねるというものだ。
通常この場合は、十分議論を尽くし、多数が納得した上で意思決定をしろと説くだろう。事実、ほとんどの経営者は意見の対立がないときは喜んで意思決定をする。場合によっては、意見の対立どころか意見を聞きもしないで独断で意思決定をする。しかも多くの経営者や管理者は、異論を挟む者を忌み嫌う。
時には、頻繁に異論を唱える者を遂には切って捨てる(人事評価点を下げる、配置転換をして目の前から消す)ことさえある。
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