海外進出企業に学ぶこれからの戦い方
長期的な視点で自社文化をグローバルに展開する――ヤマダ電機(2/2 ページ)
理念や経営モデルを「日本語」で理解する
瀋陽店の出店に先立ち、ヤマダ電機は日本で100人の中国人留学生を採用した。前期、今期も各50人程度の留学生を採用している。その留学生に対し「創造と挑戦」、「感謝と信頼」に代表される企業理念の教育に始まりあらゆる教育カリキュラムを日本語で実施している。日本の文化の中で磨き上げてきた自社の理念や経営モデルをコア人材に理解してもらうには、言葉のニュアンスも含め「日本語」が最適という考え方である。昨今、社内公用語を英語にする企業も出てきているが、ヤマダ電機はその真逆をいっている。
コア人材とのビジネスコミュニケーションは日本語が公用語になっている。この人材が、現地で採用した人材に母国語でニュアンスまで含めて教育を行うことで、末端まで企業理念、ビジョンを浸透させているのである。こうすることで、オープン時の支援を除き、現地店舗は全て現地スタッフで運営するというのがヤマダ電機の方針となっている。
また、現地採用にも特色がある。現地採用は全て新卒採用で、業界で経験のある中途は採用していない。中途の方がビジネスを理解しており即戦力のように思われるが、中途半端に他社の文化を持ち込まれては全体のベクトルが統一できなくなるという考え方である。
ヤマダ電機の海外展開のもう一つの特徴が、経営システムを輸出することで現地に資するという考え方である。厳しい日本での戦いの中で磨き上げてきた物流システムや修理、サービス網、家電リサイクルの手法や廃家電処理システムなど、今後新興国で必要となるノウハウを提供することで現地に受け入れられる形で海外に進出していく方針のようである。
特に、リサイクルや廃家電の処理などは、新興国でも今後に向けて検討していかなければならない課題であろう。単に店舗展開をするだけでなく、日本で先行して作り上げたシステムごと海外に進出することで現地に受け入れてもらうため、ヤマダ電機は進出先の政府機関を招待して自社システムの説明を行っているようである。進出先で成功事例ができ、これが現地で広まれば展開のスピードも上がるが、それまでは個別対応が必要となる時間のかかる取り組みと言えよう。
何故、ヤマダ電機はこのような戦略をとっているのだろうか? 今期の業績は悪化するものの、業界で一人勝ちといわれるほどの売上と収益率を達成している企業の強者の戦略とも映る。また、これまでの経験から他社が市場をある程度教育してから進出することで、マーケットを一気に獲得できるという自信もあるのかもしれない。(ヤマダ電機が日本の家電量販業界でトップ10に入ったのは1997年である。そこからわずか5年で業界首位となり、その後は2位以下との差を広げている。)
一方では、2007年にメーカーからの派遣社員の問題や廃家電処理における協力業者の不正問題などで行政から指導を受けたという痛い経験から、企業のコアである人材育成を徹底しなければならないという考えに至ったのかもしれない。何れにせよ、海外展開ではこれまで同社が日本で培った企業文化と経営システムでエッジを効かせて競争に勝とうとしている。そのために、短期的な視点だけではなく、長期的な視点で物事を考えて戦略を立て実行しているように思える。
環境変化の激しいグローバルマーケットでの戦略を考える際、どうしても3年ぐらいのスパンでの収益性に意識が向きがちだが、コアヴァリューをどこに置くか、それを軸に長期的に戦っていくためにはどのような取り組みが必要かを考えることも重要である。
今後の海外戦略を考える際には、例えば10年先の“ありたい姿”を定義し、これを実現するための施策を考えるという視点も持つ必要があるだろう。但し、市場変化のスピードは速い。顧客も競合もどんどん変わる。そのような環境下で、市場変化のスピードを凌駕する付加価値を作ることができるかどうかがヤマダ電機の海外展開の成否を左右することになるであろう。
著者プロフィール
井上 浩二(いのうえ こうじ)
株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。
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