「ERPもSaaSも不要になる」 - 米リミニストリートCEOが語るAgentic AI時代のアーキテクチャ(1/2 ページ)
自律型AIが人間に代わって業務を遂行する「Agentic AI(エージェンティックAI)」時代が幕を開け、エンタープライズITは抜本的なアーキテクチャの再定義を迫られている。人間が画面に向かってデータを入力していた時代から、無数のAIエージェントがバックエンドでシステムと連携し、自律的に意思決定を下す世界へ――。ITシステムのあるべき姿そのものが、根本から変わろうとしている。
しかし現実を見ると、多くの日本企業は「SAP 2027年問題」に代表される既存ERPの保守サポート期限切れを前に、メガベンダーが推し進める最新クラウド版やSaaS型ERPへの移行に追われている。果たして、次世代のイノベーションを描くべき巨額のIT予算とリソースを「システムのアップグレード」に投じることが、これからの時代に見合ったROIをもたらすのだろうか。
エンタープライズソフトウェアの第三者保守サポートにおける世界的リーディングカンパニー、米Rimini Street(リミニストリート)の共同創業者兼CEOであるSeth Ravin(セス・ラビン)氏は、かつてPeopleSoftなどでERPベンダー側の幹部を務め、ベンダーのビジネスモデルを内側から知り尽くした人物だ。顧客の利益を守るため、2005年に対抗馬として同社を創業した。
AIの台頭によって、企業は既存のIT資産をどう扱い、次世代に向けてどのようなシステムアーキテクチャを描くべきなのか。来日したラビン氏に、AI時代のエンタープライズITの未来図と真の投資戦略を聞いた。
「クリーンコア戦略」は、企業の競争優位性を奪う
――現在、多くの日本企業がERPのクラウド移行やアップグレードのプレッシャーに直面しています。システム刷新に巨額のIT予算が割かれている現状をどう見ていますか。
ラビン氏: ソフトウェアベンダーは、数年ごとに顧客にアップグレードを強いるビジネスモデルを好みます。しかし、企業側から見れば、投資に対するリターンはアップグレードのたびに減少しています。CFO(最高財務責任者)やCIO(最高情報責任者)はAIの導入にプレッシャーを感じていますが、既存システムの移行プロジェクトに予算を奪われ、「AIに何をどう投資すべきか分からない」と混乱しているのが実情です。
リミニストリートは過去20年にわたり、150カ国でFortune 500企業や政府・軍事機関など、極めてミッションクリティカルなシステムを支えてきました。私たちのコアバリューは、ベンダーの強制的なアップグレードを回避し、システムの寿命を15~20年延長させ、保守コストを半額に抑えることです。
――日本企業は自社の業務プロセスに合わせてERPを重度にカスタマイズしている傾向があります。メガベンダーは現在、カスタマイズを排除して標準機能に合わせる「Fit to Standard」や「クリーンコア」戦略を推奨していますが、これについてはどうお考えですか。
ラビン氏: メガベンダーが「クリーンコア」を強力に推進しているのは、顧客がテーブル構造などをカスタマイズしてしまうと、ベンダー側が提供するAI機能がうまく動作しなくなるからです。
しかし、顧客にとって、カスタマイズやアドオンは長年培ってきた自社の競争優位性そのものです。ベンダーの言うとおりにアドオンをすべて削除し、全員が同じ標準プロセスを使うようになれば、同業他社との差別化の源泉を失います。
さらに問題なのは、その経済性です。これまで莫大なコストをかけて開発したアドオンを一度捨てさせ、ベンダーが提供するプラットフォーム上で再開発させたうえで、さらに毎年サブスクリプション費用を支払わせようとしています。これは顧客企業にとってまったく経済合理性がありません。実際、コストが膨れ上がりすぎてコントロール不能になり、マイグレーションプロジェクトの途中で頓挫したり、CIOが責任を問われて解任されたりするケースも出ています。
既存資産の上にAIを被せる「ヘッドレス」への進化
――では、アドオンを残した既存のレガシーERPのままで、どうやって最新のAIやイノベーションを取り入れればよいのでしょうか。
ラビン氏: 「ヘッドレスERP」という言葉をご存知でしょうか。
AIエージェントが人の作業を代行するようになると、人が利用するためのUIよりも、AIエージェントが連携しやすいインタフェースが求められます。そのため、ERPからUIを切り離し、バックエンドのトランザクションシステムはそのまま維持する考え方です。
私たちはそのヘッドレスERPの上に「Rimini Agentic UX」というフロントのレイヤーを被せます。既存のアドオンやカスタマイズには手を加えず、その上にAIと新しい機能を重ねていく。ユーザーは裏側にある古いERPを直接触る必要はなく、AIエージェントを介して業務を処理できるようになります。我々はこれをServiceNowのプラットフォーム上に構築しており、AI駆動のオーケストレーション、自動化、UXデザインを組み合わせて、役割やペルソナに基づいた生産性向上を実現します。
Salesforceなどもヘッドレス化を進めていますが、こうしたヘッドレスアプリの流れはこれからさらに加速するでしょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
ITmedia エグゼクティブのご案内
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。 勉強会のスケジュールはこちら
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入して申請ください。審査のうえ登録させていただきます。
- 入会条件:
- 上場企業および上場相当企業の課長職以上
※入会は無料です
エグゼクティブコンテンツ
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「大企業は一朝一夕には変わらない」 NTTデータ冨安寛氏がAI時代に重視する原理原則
-
2
なぜ答えが揺れ、堂々と間違えるのか ―― 確率で動く生成AIの正体
-
3
初心者向けの料理教室、男性受講生が過半数に 家庭での調理頻度も増加
-
4
ほんのちょっと心の持ちようを変えるだけで、人生も毎日も変わる
-
5
第55回:「誰が言ったか」で判断していないか──SNS時代、エグゼクティブに必要な「空気に逆らう力」
-
6
「現実にCtrl+Zはない」──フィジカルAI時代に企業が備えるべき新役務「AIスチュワード」とは
-
7
子供の夢をYouTuberからホワイトハッカーに! 具現化を進めるCISO - GMO 牧田氏
-
8
コミュニケーションの質が一変! 心理カウンセラーの「聞く技術」とトレーニング法
-
9
「仕方ないインシデント」まで全力を尽くせるか - さくらインターネット 江草氏
-
10
チェキの新製品、タッチパネル式大画面を初搭載 富士フイルムが2機種新発売へ
ITmedia エグゼクティブ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaエグゼクティブをフォロー