変革の停滞を打ち破る!社内を円滑に動かす「組織摩擦」の公式

摩擦を式にする――「空気」を経営会議の議題に変える、組織摩擦係数の読み方(2/2 ページ)

3つのレベルで読む

 F_orgの値は、3つのレベルに分けて読みます。1.0未満は、押す力が摩擦に勝っていて押せば動く「加速帯」です。1.0から2.0の手前までは、押してもなかなか動かない「停滞帯」で、2.0以上になると、荷物が床に密着した「膠着帯」に入ります。膠着帯では、押す力を足すより先に床そのものに手を入れないと、話が始まりません。

 各レベルの感覚をつかむ目安を、1つ挙げておきましょう。当方がワークショップの中で組織摩擦診断を行った約25社の平均(2026年9月末時点)は、F_orgにしておよそ1.34で、停滞帯に入ったところにあたります。ゼロトラストに関心のある企業が診断を受けている以上、偏りも避けられません。日本企業全体の平均ではない暫定の参考値として、荷物は動かなくはないけれど押す側の息が上がる程度の重さ、くらいに受け取ってください。

自己申告の数字を、どう扱うか

 この係数の4つの値は回答者の自己申告から出てくるもので、統計調査から推定した値でも、第三者が監査した値でもありません。推進役が答えれば変革意志は高めに出るでしょうし、疲れ切った現場が答えれば危機感は低めに出るかもしれません。点数をつければ必ずどれかの変数が最下位になりますが、その差が小さければ、最下位の変数が本当のボトルネックとは限りません。当方の診断でも、最下位の変数と下から2番目の変数との差が0.25に届かないときは弱点として名指しせず、参考として示すだけにしました。

 私見ですが、だからこそこの数字には正しい使い方が2つあります。他社と比べないことと、1人で答えないことです。床の状態は会社ごとに違うので、比べる相手は隣の会社ではなく、半年後の同じ床になります。同じ設問に経営層、CIOやCISO、現場の担当者がそれぞれ答えたとしましょう。数字がそろえば組織の共通認識で、ずれればそのずれ自体が一番の情報です。経営が危機感を4と答え、現場が2と答えたなら、その2点の差は、前回の「経営が見ている景色」と「現場が知っている景色」の距離そのものです。

 自己申告の癖を設計で少しでも減らすために、当方の診断には、回答同士の矛盾を拾う規則を8つ入れてあります。F_orgの計算に実際に反映するのは、そのうち2つだけです。縦割りが厚い(4以上)のに変革意志も高い(4以上)と答えた「口先リーダーシップ」の疑いでは、変革意志の値を0.85倍にします。危機感が低い(2以下)のに変革意志だけが高い(4以上)「孤軍奮闘」では0.9倍で、どちらも補正後の値でF_orgを計算します。

 それ以外の規則は減点せず、「疑い」として画面に表示するだけです(8つの一覧は図2にまとめました)。たとえば「セキュリティは『投資』だ」と答えているのに、売上高に対するIT予算の比率が低い組み合わせは、「本音と建前」の疑いとして示されます。このIT予算の比率だけは印象ではなく、実際の予算額と売上高を入力してもらい、計算で出す仕組みにしました。23問の中で、唯一の実測です。建前をすべて数式で減点できるわけではありませんが、少なくとも机の上には載せられるでしょう。

図2:回答どうしの矛盾を拾う8つの規則――減点に使うのは2つ、残る6つは表示だけ

 自己申告の数字は正確さでは統計にかないませんが、会議室の空気を「3.2と2.1の差」として机の上に置くことはできます。数字になった空気は、ようやく議題になります。

明日、会議室で試せること

 今回の持ち帰りは、4つの変数のうち自社で一番重い摩擦要因に当たりをつけることです。次の4つの問いに、直感で1から5の点を付けてみてください。

  1. 新しいツールを1つ導入するのに、承認は何人分必要ですか(多いほどSが高い)
  2. IT予算のうち、今あるものを動かし続けるために消えている割合はどのくらいですか(高いほどLが高い)
  3. 役員会議で、セキュリティは「コスト」と「投資」のどちらの言葉で語られていますか(「コスト」ならCが低い)
  4. この変革が失敗したとき、キャリアに傷がつく人は誰ですか(名前が出なければL'が低い)

 4つ目の答えがすぐに出てこない会議室は、分子より先に分母を見た方がよいかもしれません。次回はその分母の2つ、危機感と変革意志の組み合わせから、組織の「体質」を4つに分けてみましょう。同じ停滞帯にいる組織でも、体質が違えば押す場所はまったく違ってくるでしょう。

 ※当方はゼットスケーラーに所属していますが、この連載の概念とロジックは個人としての問題提起であり、文中の組織の例は、複数の現場に共通する型を合成したもの、または架空のものです。

<著者プロフィール>
髙岡 隆佳 (TAKAOKA Takayoshi)

 ゼットスケーラー エバンジェリスト&シニアプロダクトマーケティングマネージャー。

 セキュリティ業界で25年以上、250社を超える実装現場に携わっている。DBSCではワーキンググループリーダーとして、経済産業省の参考資料となったデータベース暗号化ガイドラインや内部不正対策ガイドラインに貢献。CSAでの活動を通じて「真のゼロトラスト実装」を提唱し、「ゼロトラスト負債(ZTD)」「組織摩擦係数」など、日本のセキュリティが抱える構造問題に名前をつけ、経営を巻き込んだセキュリティ投資の根本改善を働きかけている。

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変革の停滞を打ち破る!社内を円滑に動かす「組織摩擦」の公式

技術を伴う変革や移行が予算や技術の問題ではなく、「組織の摩擦」によって停滞している企業は少なくありません。本連載では、250社以上の実装を支援してきた筆者が、この目に見えない停滞要因を「組織摩擦係数」として可視化し、変革を阻む壁を打ち破るための具体的なアプローチを全5回にわたって解説します。

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